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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

無題

顔なじみの猫とすれ違ったとき、しっぽが触れただけで温かさと重さを思い出す夢。午前六時少し前。
2020.03.31 21:49(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

エスカレーター

 エスカレーターの手前で呼び止められた。
「あの、お一人ですか? 一緒に乗ってもいいですか?」
「は?」
 怪訝な顔を向けると、相手は足元を指差した。床に貼られたシートには注意書きがあった。
『安全のため、歩かずに2列でお乗りください』
 もう一度、首を傾げて見せると、
「1列で乗ると危険なんですよね? 一人でずっと困ってたんです」
 というわけで、今日は知らない人と並んでエスカレーターに乗った。
2020.02.15 18:33(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

無題

切り分けた端からきらきらの粉になり、記憶はどこまでもまとわりついてくる。
2020.02.11 17:19(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

魔女の願い

 長閑なはずの森が荒らされていた。金属がぶつかる音。人の声。魔女の眷属となった猫には、時折、木々の叫びも聞こえた。
 魔女が気付いたときにはすでに家は武装した兵士に囲まれていた。扉に鍵をかけ、防御の魔法を施すだけで精一杯。それほど長くもつものではない。
「あなたにはお使いに行ってほしいの」
 猫を抱き上げて、魔女はその首に光る木の実をかけた。
「これを届けてね」
 魔法樹の実は願いを聞いてくれる。ただし、叶えてくれるかどうかはわからない。叶ったとしても、いつになるのかわからない。
 今すぐ必ず願いが叶うなら、どれだけ良かったことだろう。
 猫は抵抗した。お使いなんて嘘に決まっている。
「ダメ。おとなしくして」
 魔女は猫の額を軽く突く。それだけで猫は動けなくなった。魔女は手早く魔法陣を描くと、猫を乗せた。意識を失う前、猫が最後に見たのは魔女の笑顔だった。
「あなたに幸せが訪れますように」
 遠くに飛ばされた猫は必死で魔女の家を目指した。けれども、やっと帰り着いたときには家もなく、魔女もいなかった。
 猫はぐったりと倒れこむ。魔法樹の実がころんと転がった。

「おかえりなさい」
 猫は懐かしい声に目を開ける。そこには魔女がいた。最後に見たときと変わらない。
「お使い、ありがとう」
 魔女に抱きしめられると、自分がみるみる元気になっていくのがわかった。
 時間が巻き戻っている。
 驚く猫に魔女は微笑んだ。
「今度は一緒に幸せになりましょうね」
 魔女が願った猫の幸せは、魔女の幸せでもあったのだった。




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本田モカさんの「魔法樹の実」という作品のおまけペーパーに掲載される「魔法樹の実のお話」のひとつとして書いたもの。
※ペーパー掲載作はこれよりもちょっと短いバージョンです。

本田モカさんのTwitter
「魔法樹の実」について


2020.02.05 21:03(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

無題

「と」を書く途中で力尽きたダイイングメッセージみたいな刺繍。
2020.01.28 13:20(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

非双方向コミュニケーションの顛末 ― (8)年末

 彼女が越してきてから初めての年末だ。
 クリスマスイブの前の祝日、彼女は部屋に帰ってこなかった。事故や事件だったらと心配していたけれど、いつもテーブルの上に置いてあるメイク道具一式がなくなっていて、外泊の準備をして出かけたのだとわかった。
 真っ暗で静かな部屋の中、僕はひとりだった。時折、外の道を陽気な声が通る。
 恋人がいるなら部屋に呼べばいいのに。僕が見定めてあげるし、おかしなやつならこの黒いもやもやを頭に載せてやるのに。
 僕が一晩かけてどんよりさせた部屋の空気は、帰宅した彼女が一掃した。うきうきと楽しそうに鼻歌まで歌う彼女のおかげで、前日以上に部屋は明るくなったのだった。
 結局、彼女が誰とどう過ごしたのか僕にはわからないままだ。
 今、彼女は旅行の荷造りをしている。何度か電話で母親と話している様子だったから、おそらく帰省だ。
 年越しはまた僕ひとりだ。
 戸締りを確認して、トランクを持った彼女を僕は玄関まで見送る。
『気をつけて。あと、できれば早く帰ってきて。部屋が暗くなってしまうから』
 聞こえていない、伝わらないとわかっている。
『本当は行かないでほしい』
 彼女に手を伸ばす。僕の指先には黒いもやもやが纏わりついている。
 それが彼女の髪に触れる寸前、彼女はくるりと振り返った。
「それじゃ、後はよろしくね」
『え?』
「なんて、誰もいないけど」
 ふわっと笑って、
「行ってきます」
 パタンとドアが閉まる。
 鍵がかかる音を僕は呆然と聞いていた。
 それからずっと彼女の意図を考えるのに費やしたため、僕ひとりの部屋の状況はクリスマスほど悪くならなかった。
2019.12.31 13:27(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

新しい靴下の消失

 靴下が消えた。
 二足セットの新しい靴下だ。リビングで開封して、寝室に持って行ったときにはすでに一足だけになっていた。
 自分の動作を思い出しながらリビングまで戻ったけれど、廊下には何も落ちていなかった。大した距離ではないし、陰になるものもない。何もないのだ。
 途方に暮れた私は、リビングにいた彼に詳しく説明した。すると、彼は腕組みをする。
「召喚されたのかな」
「召喚? 靴下が?」
「今日は寒いみたいだからさ」
「ああ、吹雪マークついてたもんね」
 隣の平行世界はもうずいぶんと寒いらしい。それにしても、靴下くらいあるだろうに。最新の発熱素材だからか。
「うーん、誰かの役に立ってるなら、仕方ないか」
 納得はいかないけど。
2019.12.08 00:18(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

冬の夜

 帰り道、いつのまにか暗くなったことに気づいて見上げると、空には無数の光が瞬いていた。白、金、青や赤まで、とてもカラフルだ。
「見て」
 隣を歩く彼の腕を引いて、二人で足を止めた。
「夜景かな」
「きれい」
 見ているうちに、光は柔らかく滲んで、ところどころで混ざり合う。水彩画のようだ。
「水面だね」
「ゆらゆらしてる」
「きれいだね」
 私のお気に入りの角度で笑って、彼は私の手を取る。私たちの手袋の毛糸は少しずつ絡まって、夜が更けていく。


修正の上、豆本「冬の夜」収録。

2019.12.05 22:24(Thu)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

遠くからでも

 校歌の一番に必ず「富士」と入っている地域で生まれ育った私だけれど、その大きさを実感したのは、二百キロ以上離れた筑波山から富士山を見たときだった。以来、どこに行っても富士山を探すのがくせになっている。台風一過の今朝は、カフェオレを飲み干したマグカップの底にくっきり現れていた。今日はいい日になりそうだ。




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点字物語「天の尺(あまのじゃく)」への投稿作(選外)
http://owarai.to/amanojaku634/monogatari.html
選んだ絵:尾州不二見原
2019.11.25 21:30(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

秋の夜

 塀の上を三毛猫が歩いていた。黒の部分が多めの三毛猫だ。
 寝静まった街。人の気配はない。虫の声だけが途切れずに夜を彩っていた。
 ふと甘い香りが鼻を掠め、猫は立ち止まる。そこにぱらぱらと小さな花が降ってきた。金木犀だ。辺りを見回しても木はない。花が飛ばされるほどの風もない。
「翡翠」
 猫は虚空に声をかけた。ぱたぱたと動く尻尾は二つに割れている。
 返事の代わりに、今度は一握りもありそうな塊で花が降ってきた。
「翡翠」
 頭を振って小山になった花を落とし、猫は再度呼びかける。険のある声音だった。
 彼を知っている者が見たら「珍しい」と驚くだろう。しかし元凶は彼の不機嫌を気にも留めなかった。
 笑い声とともに和装の男が宙に現れる。男は半透明で、背後の夜空が透けて見えていた。
「湖冬、愉快な形だな」
「誰のせいだと」
 落としきれなかった花をつけたまま恨めしげに見上げる湖冬に、翡翠は片手を挙げる。
「ああ、私が悪かった。謝ろう」
 全く悪びれずに言う。
「集めたんですか、これ」
「もちろん」
「暇なんですね」
 湖冬はため息を吐く。
「ああ、暇すぎてな。だから誘いに来たのだ」
 翡翠はにやりと笑った。
「さあ飲むぞ」
「これが肴ですか」
「悪くないだろう?」
「ええ、いいですね」
 音もなく猫と男はかき消え、残された花が舞う。甘い香りは彼らの後を追うように、するすると霧散していった。


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テキレボ9の300字SSポストカードラリー参加作品の長いバージョン

以下、元の短いバージョン。

2019.10.22 19:21(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |
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