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オレンジ宇宙制作室

エルエル

 自由登校になってから初めて学校に行った。ちょうど五時間目だ。廊下の窓から、中庭を挟んだ新棟で二年生が授業を受けているのが見える。ドアを開けると教室には先客がいた。
「あ、びっくりした」
 窓際の机に座って外を見ていた根岸さんは、振り返ってあたしを見て手を振った。
「何やってるの?」
 あたしは根岸さんにそう聞いた。接点がなくてあんまり話したことはなかったのに、自然と言葉が出てきた。
「んー? 何も?」
 根岸さんはそう言って、外に向かって左手を伸ばす。あたしは彼女の隣りに立った。グラウンドが見渡せる南向きの窓。緑のネットの向こうに曇り空が広がる。三年間名前を知らないままだった木が窓のすぐ下まで枝を伸ばしている。教室の中が寒く感じるのは暖房が入っていないせいか、二人だけしかいないせいか。
 あたしも彼女の隣りの机に座った。足を伸ばして窓枠にかかとを乗せる。スカートのひだを意味もなく揃えてみた。
 根岸さんは人差し指と親指でエルを作る。
「調子どう?」
「どうかなぁ」
 私も左手を伸ばしてエルを作った。
「よくわかんないよね、終わってみないとさ」
「ねー」
 片目をつむって、人差し指とグラウンドのライトの柱をそろえる。びっくりするくらい大きな音で響いたチャイムがまるで他人事に思えて、なんだか泣きたくなった。

三里さんところから。
創作家さんに10個のお題
http://note25page.seesaa.net/article/130126889.html

| 単品 | 03:13 | comments(0) | trackbacks(0)

落しもの

 あたしがどこかで落としてしまったあたしが目の前を歩いていて、彼女に声をかけるかどうかあたしは迷っている。あたしのこと覚えてる? あたしは覚えてるよ。たぶん彼女は不思議そうな顔をして首を傾げるだろう。そういうものだ。
| 単品 | 02:25 | comments(0) | trackbacks(0)

あかるいね

 歩道の方を見ていた彼女が何か呟いた。
「何?」
「え?」
「何か言ったでしょ?」
「あーうん。あかるいねって」
 信号が青に変わって、僕は車を発進させる。
 彼女が呟いたのが本当は別の言葉だってことに、僕は気付いていた。でもそのまま話を合わせる。
「もう春だね」
「そうね」
 彼女はまた歩道の方に視線をやる。
 僕らは同じ方向に進んでいるのに別々の方向を見ていた。
 日差しがまぶしくて、間違えたドアを開けてしまったような不安な気持ちになる。
「あかるいね」
 彼女が言わなかった言葉を僕も言わなかった。
「あかるいね」

三里さんところから。
創作家さんに10個のお題
http://note25page.seesaa.net/article/130126889.html

| 単品 | 02:10 | comments(0) | trackbacks(0)

読書の残骸

 居間のテーブルの上に読みこぼした文字がたくさん落ちているのを見て、母親は息子を叱る。

五十嵐さんのところから。
瓢箪堂のお題倉庫
http://hyotan50.blog.shinobi.jp/Entry/2067/

| 単品 | 01:56 | comments(0) | trackbacks(0)

オレンジ色の人

 交差点で彼が隣に立ったとき、オレンジ色の人だとなぜだか感じた。
 シトラスの匂いがしたというのとは違う。オレンジ色だ。
 服がオレンジ色だったというわけでもない。そのときはまだ彼の着ている服の色は見えていなかったし、見えたとしても実際に着ていた服は紺色だった。オレンジ色の服を着ていたのはあたしの方だ。
 よくわからないけれど、とにかく気になって、あたしは彼を見上げた。同じタイミングで彼もあたしを見た。目が合って、なんとなくおかしくて笑ってしまったら、彼も笑っていた。
 後で聞いた話だけれど、彼はあたしのことを紺色の人だと感じたらしい。

五十嵐さんのところから。
瓢箪堂のお題倉庫
http://hyotan50.blog.shinobi.jp/Entry/2067/

| 単品 | 01:47 | comments(0) | trackbacks(0)

ゆらりゆらら

 防波堤の上を歩いていた。夜。波の音に慣れてしまえば、冬の海はとても静かだ。中途半端な形の月が後ろから僕らを照らす。車道に落ちる影。僕のコートと彼女の髪が、風を受けて膨らんでは萎む。潮の匂いも冷たい。
 腕に硬いものが当たる。振り返ると、彼女がペットボトルを差し出していた。
「この場所?」
「うん」
 彼女はうなずいて足元を指差す。小さな白い丸のしるしがペンキで描かれていた。
「開けるよ」
「うん」
 今夜のために用意した炭酸飲料だ。フタを回すとプシュッと軽い音がして、透明な液体の中を細かい泡が上った。そのままフタを外して彼女に渡す。
「先にいいよ」
「ありがと」
 受け取った彼女は一気に半分飲み干す。その残りを僕はやっぱり一気に飲み干した。ほんの少しだけ甘い。
 海に向かって立ち、僕らは手をつなぐ。
「せーのっ」
 掛け声に合わせてジャンプする僕らを、たくさんの細かい泡がするすると宙に押し上げた。シュワシュワと弾ける泡の上から海を見下ろして、僕らは笑顔をかわす。空のペットボトルに月光を集めてもっと遠くまで行こう。

五十嵐さんのところから。
瓢箪堂のお題倉庫
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| 単品 | 01:28 | comments(0) | trackbacks(0)

水溶性

 雨に溶けて落ちた私は彼女に出会った。彼女が私にとって特別なのは、私がこうなってから最初に触れた人間だからかもしれない。私は彼女の髪を滑り首筋を伝いシャツの襟に吸い込まれた。
 次に彼女に会ったとき、私は彼女の体内に毒を運んでいた。
 その次には、彼女が埋められた土をえぐった。むきだしになった骨を洗った。
 いつか彼女も溶け出して、私と混ざればいい。そう願っている。

提出しなかったやつ その1

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