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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

雨上がりのキラキラ

 雨上がりのキラキラを踏んで歩く。
 芽が出て、蔓が伸びる。踵に絡んで、髪を引く。
 キラキラが地面から吹き上がり、視界を覆う。魚が跳ねる。羽が舞う。指先から花が咲く。甘い匂いに包まれる。
 眩しくて目を閉じると、誰かがそっと頬を撫でていった。
2017.09.18 11:43(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

9の逆襲

 まず9は6を乗っ取り、成りすますことにした。それはとても簡単だった。しばらく様子を見たけれど、6が9になってしまったことに気付くものはいなかった。
 9に成りすました6と本来の9に挟まれた7と8は、丸められたり切り取られたりして、あっと言う間に9にされてしまった。
 そこで、6に成りすました9は正体を現した。すると、逃げられないと悟ったのか、0が白旗を上げた。同時に、9は3に密かに揺さぶりをかける。自身が3の倍数であることを訴え、なんとか寝返らせることに成功した。突如3が9になったことで、残りの1と2と4と5は分断されてしまい、決着が付くまでにさほど時間はかからなかった。
 こうして、常に蔑ろにされてきた9が全ての数字を制覇した。
 その結果、全ての9が無視され、通し番号ではなくアルファベットで命名されることになったのだった。
2017.09.14 22:30(Thu)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

転生シンドローム

 朝食を食べながら、異世界TVを付ける。お気に入りの異世界をチェックしたあと、食パンを片手にザッピングすると新しいチャンネルを見付けた。建物の感じからすると中華風だ。時差があるようで真っ暗だった。人は全く通らない。
「中華風かぁ。官吏を目指すヒロインとかだったらいいけど、後宮モノだったらスルーかなぁ」
 新しい異世界と繋がりができると、こうやって定点カメラからの映像と音声が届くようになる。それから、その世界の実在の人物をモデルにした異世界省公式のオンラインゲームが配信される。よほど特殊な世界でなければ、恋愛シュミレーションゲームになることが多かった。異世界の文化を楽しく学ぶため、だそうだ。一方的に視聴するだけで交流なんてできないのにおかしな話だと、先日まで私も思っていた。
「また朝から異世界なんか見て! さっさと食べないと遅刻するわよ」
 母からのお小言に唸り声のような返事を返し、チャンネルを変える。去年新しく繋がった中世西洋風の異世界だった。異世界省の情報によると、定点カメラが写すのはとある国のお城の広間だそうだ。こちらの午後が向こうの夜で、タイミングが合うと舞踏会が見れる。私はわりと気に入っている異世界だった。公式のゲームは、下働きとしてお城に勤めている没落貴族の令嬢がヒロインだった。
「もう、いい加減にしなさい!」
 キッチンから出てきた母が、私の手からリモコンを取り上げる。
「あなたのクラスの子、転生シンドロームで引っ越したんでしょう?」
 異世界に暮らしていた前世の記憶を思い出したと言って、前世でこの世界を視聴していたとか、ゲームや小説で見た登場人物に転生しているとか言い出す症状が、転生シンドロームだった。思春期特有のもので成長したら自然に治まるけれど、あまりにひどい場合、環境を変えることもあった。異世界TVで視聴できるのは世界のごく一部だから、前世で見たことがない(と彼らが主張する)場所に引っ越せばいいのだ。
「お願い。録画予約するだけだから」
 私が懇願すると、母はため息を吐きながらリモコンを返してくれた。
「何かイベントでもあるの?」
「うん」
 転生シンドロームで引っ越した友だちが教えてくれたのだ。前世でこの中世西洋風異世界のヒロインだった彼女は、王太子に見初められて、今日の舞踏会で華々しく登場する。その後ろで悔しがるヒロインの邪魔をしていた公爵令嬢が私だと。
 そして、彼女が前世で読んでいた異世界小説によると、この世界のヒロインが私で、友だちのふりして陰で邪魔するのが彼女だと。
 全然ピンとこないのだ。ヒロインと言われても、何をしているわけでもない。普通の女子中学生だ。好きな人も特にいない。
 舞踏会の様子を見たら私も前世を思い出すだろうか。
 それに、引っ越ししてしまったのに彼女はどうやって私の邪魔をするんだろう。
 録画予約をセットして、朝食に専念する。ふと、食パンを咥えたまま走って登校してみたくなり、私は軽く首を振った。
2017.09.10 19:49(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

パラベン

 蓋を閉める。棚にしまう。扉を閉じて、鍵をかける。冷やさなくても腐らない。燃やさなくても大丈夫。また会う日まで、安らかに。
2017.09.05 20:37(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

季節切り替えのお知らせ

お客様各位

 平素は弊社サービスをご利用いただき、誠にありがとうございます。
 暦の進行に伴いまして、今年も秋をはじめることとなりました。地域ごとの具体的な日程は改めて個別にご案内いたします。また、一部地域のお客様におかれましては、事後のお知らせとなってしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます。
 秋への切り替えによりお客様ご自身で準備していただくことがございます。お手数をおかけいたしますが、下記の「秋切り替えの手順」を参考にご対応をお願いいたします。「スポーツの秋」「芸術の秋」「食欲の秋」など、お客様の希望される秋によって準備内容が異なりますので、お間違えないよう、ご注意ください。さらに今年度より、春との対照表もご用意いたしましたので、お役立てください。
 今年度の秋の主な天候スケジュール、さらに秋以降の計画につきましては、弊社ウェブサイトで公開しております。変更がありましたら随時更新しますので、ご参照ください。
 お客様が秋を満喫していただけるよう、弊社のSNSアカウントでは旬の情報を配信しております。この機会にぜひフォローしてみてください。
 今後とも弊社サービスをどうぞよろしくお願い申し上げます。
2017.09.02 12:15(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

不穏なデート

 手も触れていないのに勝手に開く扉を入ると、首がない人形の列に出迎えられた。不自然な姿勢で固まる彼女たちの間を、私はこわごわ進む。そんな私に構わず、彼はどんどん先に行ってしまう。
「いらっしゃいませー」
 突然声をかけられて、私はびくっと飛び上がってしまった。それをあざ笑うかのように、様々な方向から「いらっしゃいませー」が響き渡る。
 私に声をかけたのは、色の薄い金髪の女だった。やたらと高い靴の踵が不安定に揺れている。
「何かお探しですかぁ?」
 耳をふさぎたくなるような、斜め上に突き抜ける声。
「彼女の服を探してるんだ」
 当たり前に会話をしている彼が信じられない。
「オフショルダーでデコルテを見せたりとか、いかがです?」
 謎の呪文が私を惑わす。彼は私を抱き寄せて逃がしてくれない。
 女は四角い濁った爪で白い布を摘まんで、私の身体にあてる。ひいっと息を飲むと、耳元で彼が笑った。口臭が煙になって私を縛る。
「よくお似合いですよぉ」
 琥珀の目の中で蟻が踊る。真っ赤な口紅が私の鼻先を掠める。彼がうなずくと、「ありがとうございまぁす」の大合唱が轟いた。




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「ホラー超短編」投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/06/post-9945.html

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/07/post-4575.html
2017.07.31 22:50(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

十二神将立像

 数日顔を見ていない幼馴染の仏師を心配して差し入れを持って家に行く。母に頼まれたからだ。明日の朝じゃだめなのかと渋ると、また食べずに制作し続けて倒れてたら困るからと押し切られた。
 仕方なく隣家の門をくぐる。灯りが漏れているから倒れていることはないだろう。近づくと、中から話し声が聞こえた。どうせ独り言だろうと思って、私は遠慮なく戸を開ける。
「弥平、生きてるー?」
 軽く声をかけて、私はぽかんと口を開けた。狭い家には、鎧を身につけた屈強な男たちが十二人。それと、幼馴染の弥平。みんなが一斉に私を見た。
「お邪魔しました・・・」
 私は、そのままそっと戸を閉めようとした。
「待って」
 弥平が駆け寄って、私の腕を掴む。
「助けて、節ちゃん」
「な、なに?」
 泣きそうな顔で頼られると強く跳ね返せない。
「十二神将の像が動き出したんだよ」
「はあ?」
 何を言ってるのかと目を眇める私を、大きな影が見下ろした。
「ほぅ、なかなかかわいいじゃないか」
「弥平さんも隅に置けませんねぇ」
「かわいいか? 別に大したことないだろ?」
「俺は伐折羅。よろしくな、節!」
 囲まれた私は、頭を撫でられたり、失礼なことを言われたり、手を握られたり。
 押しのけられ倒れた弥平が、足元でうめき声をあげた。私はばっとしゃがむと、弥平の肩を掴み、ぐらぐらと揺らす。
「これ何なの? どういうことか説明しなさいよっ!」
「だから、彫り上がった十二神将が動き出したんだってば」
「だ、か、ら! それがどういうことかって聞いてるのよ!」
「わからないんだよ。助けてよ、節ちゃん!」
「無理!」
 私は弥平から手を離す。立ち上がって回れ右をした・・・つもりだった。
「まぁとにかく中に入れよ」
 軽々と私を肩に担ぎ上げた鎧男(十二神将?)の一人が、そう言ってぴしゃりと戸を閉めた。別の一人に引きずられた弥平を、あとで覚えてなさいよと睨むと、ううぅと情けない声が返ってきた。
 それが私と十二神将の出会いだ。自分たちが守護するに最もふさわしい薬師如来像を探す彼らに付き合わされて、私は諸国を巡る旅に出ることになる。それもこれも、弥平が彼らに見合う薬師如来像を作れないせいだ。私は十二神将に振り回されながら、故郷で薬師如来像を彫り続けている弥平を遠い空から罵る毎日だ。
「ほんとに、帰ったら覚えてなさいよ!」
2017.07.16 13:17(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

巻貝の緑

 右に五回。左に千回。
 冷蔵庫から流れてきた水が作った小さな海を、ぐるぐるとかき混ぜて波を起こす。発生した雲を割り箸で絡め取り、幅木に貼り付けて入道雲にした。
 翌朝フローリングの浜には小さな巻貝が打ち上げられていた。そっと拾うと、貝殻の縁がかびていた。この緑は藻ではなかったようだ。
 私は冷蔵庫に巻貝を戻す。もう何度目だろう。私は何人目だろう。
 それから、海をかき混ぜる。
 右に五回。左に千回。
2017.06.23 02:22(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

まだ六月の朝

 天窓の薄い光が布団の上に格子模様を作る。繰り返し指でなぞると、だんだんと線が濃くなっていく。影が夏の色になるまで、私は起き上がれない。ため息はそっと前髪を揺らし、雲にもなれずに消えていった。
2017.06.17 01:23(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

おかしのいえ

 魔女は目が悪いふりをしていました。ヘンゼルが指の代わりに骨を差し出すのも、グレーテルがお菓子をつまみ食いしているのも、知っていました。子どもたちは自分を狩るために村から送り込まれてきたのではないか、と疑っていたのです。だから、食べてやるなどと脅しました。しかし、しばらく過ごすうちに、子どもたちが本当にただの迷子だと魔女にもわかってきました。
 痩せ細っていたヘンゼルが健康的になったころ、魔女はグレーテルにいつもより豪華なごちそうを作る用意をさせます。ヘンゼルを檻から出し、本当のことを話し、二人を村まで送り届けるつもりでした。二人が希望するならここで一緒に暮らして構わないとさえ思っていたのです。
 グレーテルは魔女の本心を知りません。ヘンゼルを食べるための準備をさせられていると思い、なんとかしなくてはと必死に考えます。
 後は皆さんがご存知の通りです。
2017.06.03 07:36(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |
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