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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

十一月がやってくる

「十一月というのはあれかね、十二月の一つ前のあれかね?」
「おっしゃる通りでございます」
「十二月というのはあれだろう? 一月の一つ前の」
「いいえ、最後のあれでごさいます」
「最後? 最後なのか? 一月の前ではないのか?」
「最後でごさいます」
「なんとっ!」
2018.10.28 23:26(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

十月病

 今年も十月を踏んづけた。辺りに霧が立ち込める。恐る恐る一歩踏み出すと、また十月を踏んづけた。霧がさらに濃くなる。進むたびに十月を踏んでしまい、霧は一向に晴れない。私は仕方なく真っ白な中を歩いている。
2018.10.23 12:54(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

夕暮れのお別れ

「もう終わりにしよう」
 そう言って彼女は、僕に手のひらを差し出す。
 僕はうなずいて、彼女の手のひらに「さよなら」を乗せた。
 それは彼女の手のひらから滑り落ち、アスファルトの上で形を変える。
 往生際悪く「いやだよ」に変わった僕の「さよなら」を見て、彼女は僕に「ごめんね」を差し出した。
 僕はそれを受け取って、しっかりとポケットにしまう。
 ふと見上げた茜空には、ナイフで切り裂いたような三日月が出ていた。


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2004年12月作 発掘品
2018.10.20 15:39(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

柔らかな檻、秋の欺瞞

「ほら、君の好きなかぼちゃ。パイにしてみたんだ」
 どうかな、と彼は微笑む。ベッドの上で体を起こした私にパンプキンパイの載った皿を差し出した。大きな扇型にカットされたパイはこんがりときつね色で、緩くホイップされたクリームが添えられている。断面に覗くフィリングにはナッツが混ざっているのがわかる。パイ皮のさっくりとした歯ごたえまで想像できそうだった。おいしそうで目が離せない。
 そんな私を彼が目を細めて見ているのに気づいて、私は気力を振り絞って顔を背けた。
「いらない」
「マロンパイの方が良かったかな。それとも、スイートポテト?」
 どれも食べたいけれど、そうじゃない。
「甘いものでごまかさないで! 本当のことを教えてよ! 私、本当は秋じゃなくて夏なんでしょう?」
「君は秋だよ」
「嘘! 秋がこんなに暑いわけないわ!」
 彼は私をまっすぐに見た。
「君は秋だ」
 強い言葉に私は何も言えなくなる。すると、彼はふわりと表情を緩め、私の頬を撫でた。
「君も僕と同じで、秋だよ。僕が言うんだから、絶対だ」
「だったら、なんでこんなに暑いの? 私がここにいるせいなんじゃないの?」
「大丈夫。君は何も心配しなくていい」
 それから彼は、フォークで切り分けたパイを私の口に押し込み、残りの皿を私の膝に乗せた。
「夕食はキノコご飯とサンマにしよう」
 それだけ言って部屋を出て行く彼を私は見もしなかった。パンプキンパイは思った通りにとてもおいしい。自分が秋か夏かなんてもうどうでもいい。私は一心不乱にパイを食べ続けた。
2018.10.07 11:42(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

十月五日

 穴の空いた傘を街灯がプラネタリウムに変える。雨粒の軌跡は流星の尾。銀砂を散らしたアスファルト。いつもと違う歩道の、暗がりに潜む私。
2018.10.05 20:11(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

唇と髪と嘘

 私の髪はおかしい。温度と湿度と気圧への反応が異常だ。
『僕の唇を奪っただろ?』
 彼が筆談で尋ねる。怒ったようなその顔には唇がない。
「まさか」
「あなたのじゃないわ」
 私の顔の二つの唇が順に答える。嘘をついたせいで温度と湿度が上がる。髪が膨らむ。伸びる。気圧が下がる。髪はうねりながら、空に登る。そして雨が降ってきた。
『君に嘘がつけるわけないだろ』
 彼が空を見上げると、私の顔の片方の唇からため息がこぼれた。


三題噺:雨・僕・嘘
ツイッターのハッシュタグ「#雨・僕・嘘で文を作ると性癖がバレる」
2018.09.18 13:04(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

エスカレーターのこと

 エスカレーターを降りるときにつまずいたのを僕が笑ったら、神様はエスカレーターを消してしまった。
「僕の記憶を消せば良かったんじゃないの?」
 そう聞くと神様は首を振って微笑む。
 エスカレーターのことを覚えているのは、世界中で僕と神様の二人だけだ。


三題噺:世界・神様・僕
ツイッターのハッシュタグ「#世界・神様・僕を使って文章を作ると性癖が出る」
2018.09.12 20:13(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

九月五日

 洗濯機の蓋を開けると、首が入っているかもしれない。
2018.09.05 22:54(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

魔女の嗜み 第四話 日本酒を少々

 四度目のデートは郊外まで車で出かけた。目的は日本酒の酒蔵だ。お見合いの席で魔法の話題になったとき、彼女が「日本酒も少々」と話していたからだ。
 少し離れた大きな駐車場に誘導され、酒蔵までは送迎バスで移動した。通りに面した古めかしい入り口には、青々とした新しい杉玉が吊るされている。新酒の試飲イベントなのだ。
 受付順にグループに振り分けられて、酒造りの工程を見学する。最後に試飲コーナーがあった。僕は運転手を示すシールを胸に貼られていて飲めない。彼女はおいしそうに全ての酒を試飲していた。
「私ばっかりごめんなさい」
 ほんのり頬を染めた彼女は、売店で仕込みに使われている天然水の瓶詰を買った。
「おみやげ、私の魔法で作った日本酒でもいいですか?」
「ええ、もちろんです!」
 彼女は微笑むと、瓶を軽く振る。ぱっと見では日本酒かどうかわからない。差し出された瓶を受け取り、僕はおそるおそる尋ねる。
「せっかくなので、一緒に飲みませんか? 僕の部屋で」
 彼女は一層頬を赤くし、そっと俯くようにうなずいてくれた。


豆本「魔女の嗜み」収録(レイアウトの都合で、収録作は若干修正しています)

2018.09.03 23:56(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

魔女の嗜み 第三話 紅葉を少々

 三度目のデートは前回からしばらく開いてしまった。お互いに仕事が繁忙期だったのだ。クリスマスが年末に早着替えしたばかりの街はどこもにぎやかだ。ゆっくり過ごしたくて、紅葉を見に行こうと話していた庭園にあえて足を運んでみた。
 メールでのやり取りはあったけれど、直接会えるのはやはり嬉しい。雪吊りが施された立派な松や、大きな石灯籠を眺めながら、会えなかった間の話は尽きない。しかし、さすがに寒くて、園内を一周したあたりで場所を移すことに決めた。
 門を出るとき、彼女は楓の木の下で立ち止まった。
「来年は紅葉も見に来たいですね」
「ええ! 絶対に!」
 来年の約束に心が躍る。僕が何度もうなずくと彼女も楽しそうに笑った。
 わずかに葉が残る楓を見上げていると、お見合いの席で魔法の話題になったとき、彼女が「紅葉も少々」と話していたのを思い出す。
「あなたの紅葉はどんな色に?」
 そう尋ねると、彼女は地面に落ちていた楓の葉を拾う。枯れてくしゃくしゃになっていた葉は、僕の目の前でどんどん時間を巻き戻す。暗褐色から段々と鮮やかな朱色へ。
 そこで強い風が吹き抜けた。
「あっ!」
 彼女の紅葉は風が巻き上げて行ってしまった。僕は、残念そうに見送る彼女の手を握る。
「また来年見せてください」


豆本「魔女の嗜み」収録(レイアウトの都合で、収録作は若干修正しています)

2018.09.03 23:55(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |
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