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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

さようなら私たち

 気がつくと足元にたくさんの遺体があった。全員が私だ。刀か鉈か、わからないけれど、背中がぱっくりと割れている。
「だいじょうぶ?」
 どう見ても死んでいるのに、呆然としたまま尋ねると、遺体が痛いと答えた。
「痛いよ、痛い」
「だめだ。みな、涙目だ」
 遺体は口々に訴える。
 それは段々と言葉にならないうめき声に変わった。私は耳を塞いだけれど、何の意味もない。自分の内側からも声は聞こえているのだ。
 突然、カッコウの声が響いた。うめき声がぴたりと止む。澄んだ空気に遺体が溶けていく。霞んだ視界が開けて来たとき、電線にとまる鳥を見つけた。
「カッコウ」
 思ったよりも大きな鳥が身を揺らしている。
 近寄ろうとすると、どさどさと空から大きなものが降ってきた。たくさんの遺体。全員が私だ。
 私はカッコウを探す。くぐもった声を頼りに助け出そうとしたけれど、遅かった。十は鳴かず、私の遺体の下、わずかな羽音。静寂が訪れるまでは一瞬だった。
 気がつくと私は足元に倒れている。刀か鉈か、わからないけれど、何かをぎゅっと握りしめていた。





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「回文超短編」投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/02/post-ba53.html

・入っている回文
刀か鉈か(かたなかなたか)
遺体が痛い(いたいがいたい)
痛いよ、痛い(いたいよいたい)
だめだ。みな、涙目だ(だめだみななみだめだ)
十は鳴かず、私の遺体の下、わずかな羽音(とおはなかずわたしのいたいのしたわずかなはおと)

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/04/post-5e8d.html
千百十一賞受賞
2017.04.16 20:38(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

春の夜

 帰り道、風に舞う花びらを目で追うと、夜空には大きな文字が浮かんでいた。
「読める?」
 手を引いて彼の耳元で聞く。
「あれ文字なの?」
「たぶんね」
「なんだ、君だって読めないんじゃないか」
 彼はそう言って、私のお気に入りの角度で笑った。
 繋いだままの指で空の文字をなぞる。払い、点、点、払い。
「どんなことが書いてあるんだろうな」
 点、横、払い。なぞりながら「たーぶーん」と抑揚をつける。
「世の中にない何かなのよ」



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回文超短編
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/02/post-ba53.html

イベントで考えた回文「世の中にない何かなのよ」を、超短編に仕立てたもの。


2017.04.15 21:56(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

春は雨、桜

 人差し指と親指を立てて銃を作る。そして、銃口を空に向けた。
 私の頭上には大きな水風船がある。
「バンッ」
 声に出さずに、引き金を引く。
 はらはらと桜が舞い散って、雨が降る。水風船はさらに膨らんだ。
2017.04.10 20:09(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

二月十八日

 キウイフルーツの種と黒胡麻を差し替えるような仕事。
2017.02.18 15:56(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

柄の長いほうき

 月曜日。地下鉄の車内には誰かの羽が舞っていた。私はほうきの柄で天井を突く。すると、しゅるんと蜘蛛が降りてきた。蜘蛛は一瞬で羽を捕まえ、また天井に戻っていく。羽の持ち主だろうか、端の席に座っていた人はジャケットだけ残して消えてしまった。
2017.02.14 01:04(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

二月九日

 傘についていたおばけが、帰宅したときにはいなくなっていた。どこかで凍っているんじゃないだろうか。以前に撮った写真をSNSに投稿して探そうとスマホのアルバムを開くけれど、写っていたはずのおばけはどこにもいない。ただの風景写真に変わっている。もしかして、見えないだけで、今もまだ傘についているんだろうか。そう思って触れた柄は普段よりもひんやりしていた。
2017.02.09 23:00(Thu)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

不揃いな椅子

 壁際に椅子を並べる。全部デザインが違う不揃いな椅子だ。
 その椅子に私を座らせる。全員デザインが違う不揃いな私だ。
 不揃いな私に同じリボンをつける。
 不満を言わなかった一人を選んで、今日の私に決める。
2017.01.31 09:15(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

一月三十日

 ソファの上で寝返りを打つたびに、チョコレートが降ってきたらいいのに。そう思いながらこたつで寝ている夢を見て、起きたら、降りる駅を過ぎている。
2017.01.30 22:44(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

P

 休み時間のたびに、彼Qはうちの教室にやってくる。私Aの前の席が空なのを見て、あからさまにがっかりした顔をした。
「彼女Pは? どこ行ったの?」
「さぁ、わかんない」
 首を振ったけれど、本当は知っている。彼女Pは彼Bに会いに行っているのだ。次の授業が始まるギリギリに戻ってくる彼女Pは、いつも楽しそうに彼Bの話をするから。
「すれ違いばっかりなのに、なんで彼女Pを追いかけるの?」
 前から不思議に思っていたことを聞くと、彼Qは真剣な目で、
「そういう宿命なんだ」
 そして照れ隠しなのか、笑って付け足した。
「君Aにはわからないだろうけどさ」
「宿命……」
 その言葉はすとんと私Aの心に嵌った。
「わかるよ」
 私Aは大きくうなずく。目を瞠る彼Qに繰り返す。
「よくわかる」
 計算によると、彼Qと彼女Pは三日に一度は会うことができる。でも、私Aと彼Bはいつまで待っても出会えない。彼女Pは休み時間ごとに彼Bに会いに行けるのに。
「そういう宿命なんだね」
 ため息と一緒に飲み込むと胸が詰まった。


第153回タイトル競作『P』【選評】○△

微修正の上、豆本「超短編豆本 2017年春ノ巻」収録。

2017.01.30 22:05(Mon)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |

誕生日特典

「誕生日おめでとうございます」
 定期券で自動改札を通り抜けようとしたら、残額の下にそう表示された。
 改札が閉じて、「ハッピーバースデートゥーユー」が鳴り響く。
 立ち往生する私の前に駅員が小さなケーキを持って現れる。笑顔で促され、蝋燭を吹き消すと改札が開いた。
「サービスです」
 そう言って渡されたケーキを持って、私は電車に乗り込んだ。
2017.01.13 00:23(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |
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