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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

唇と髪と嘘

 私の髪はおかしい。温度と湿度と気圧への反応が異常だ。
『僕の唇を奪っただろ?』
 彼が筆談で尋ねる。怒ったようなその顔には唇がない。
「まさか」
「あなたのじゃないわ」
 私の顔の二つの唇が順に答える。嘘をついたせいで温度と湿度が上がる。髪が膨らむ。伸びる。気圧が下がる。髪はうねりながら、空に登る。そして雨が降ってきた。
『君に嘘がつけるわけないだろ』
 彼が空を見上げると、私の顔の片方の唇からため息がこぼれた。


三題噺:雨・僕・嘘
ツイッターのハッシュタグ「#雨・僕・嘘で文を作ると性癖がバレる」
2018.09.18 13:04(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

エスカレーターのこと

 エスカレーターを降りるときにつまずいたのを僕が笑ったら、神様はエスカレーターを消してしまった。
「僕の記憶を消せば良かったんじゃないの?」
 そう聞くと神様は首を振って微笑む。
 エスカレーターのことを覚えているのは、世界中で僕と神様の二人だけだ。


三題噺:世界・神様・僕
ツイッターのハッシュタグ「#世界・神様・僕を使って文章を作ると性癖が出る」
2018.09.12 20:13(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

九月五日

 洗濯機の蓋を開けると、首が入っているかもしれない。
2018.09.05 22:54(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

魔女の嗜み 第四話 日本酒を少々

 四度目のデートは郊外まで車で出かけた。目的は日本酒の酒蔵だ。お見合いの席で魔法の話題になったとき、彼女が「日本酒も少々」と話していたからだ。
 少し離れた大きな駐車場に誘導され、酒蔵までは送迎バスで移動した。通りに面した古めかしい入り口には、青々とした新しい杉玉が吊るされている。新酒の試飲イベントなのだ。
 受付順にグループに振り分けられて、酒造りの工程を見学する。最後に試飲コーナーがあった。僕は運転手を示すシールを胸に貼られていて飲めない。彼女はおいしそうに全ての酒を試飲していた。
「私ばっかりごめんなさい」
 ほんのり頬を染めた彼女は、売店で仕込みに使われている天然水の瓶詰を買った。
「おみやげ、私の魔法で作った日本酒でもいいですか?」
「ええ、もちろんです!」
 彼女は微笑むと、瓶を軽く振る。ぱっと見では日本酒かどうかわからない。差し出された瓶を受け取り、僕はおそるおそる尋ねる。
「せっかくなので、一緒に飲みませんか? 僕の部屋で」
 彼女は一層頬を赤くし、そっと俯くようにうなずいてくれた。


豆本「魔女の嗜み」収録(レイアウトの都合で、収録作は若干修正しています)

2018.09.03 23:56(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

魔女の嗜み 第三話 紅葉を少々

 三度目のデートは前回からしばらく開いてしまった。お互いに仕事が繁忙期だったのだ。クリスマスが年末に早着替えしたばかりの街はどこもにぎやかだ。ゆっくり過ごしたくて、紅葉を見に行こうと話していた庭園にあえて足を運んでみた。
 メールでのやり取りはあったけれど、直接会えるのはやはり嬉しい。雪吊りが施された立派な松や、大きな石灯籠を眺めながら、会えなかった間の話は尽きない。しかし、さすがに寒くて、園内を一周したあたりで場所を移すことに決めた。
 門を出るとき、彼女は楓の木の下で立ち止まった。
「来年は紅葉も見に来たいですね」
「ええ! 絶対に!」
 来年の約束に心が躍る。僕が何度もうなずくと彼女も楽しそうに笑った。
 わずかに葉が残る楓を見上げていると、お見合いの席で魔法の話題になったとき、彼女が「紅葉も少々」と話していたのを思い出す。
「あなたの紅葉はどんな色に?」
 そう尋ねると、彼女は地面に落ちていた楓の葉を拾う。枯れてくしゃくしゃになっていた葉は、僕の目の前でどんどん時間を巻き戻す。暗褐色から段々と鮮やかな朱色へ。
 そこで強い風が吹き抜けた。
「あっ!」
 彼女の紅葉は風が巻き上げて行ってしまった。僕は、残念そうに見送る彼女の手を握る。
「また来年見せてください」


豆本「魔女の嗜み」収録(レイアウトの都合で、収録作は若干修正しています)

2018.09.03 23:55(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

魔女の嗜み 第二話 鳥を少々

 二度目のデートは大きな池のある公園にやってきた。秋風がどこかにある金木犀の香りを運ぶ。さざ波立った湖面に魚影がきらりと光る。
 僕らは手を繋いで橋を渡った。ボート乗り場で顔を見合わせ、二人揃って首を振る。カップルでボートに乗ると別れる都市伝説を彼女も知っていたかはわからない。
 スワンボートの脇を鴨が泳いでいく。沈んでしばらく顔を出さないのは鵜だろうか。一方、足元では僕らの間を鳩が邪魔する。そんな鳥たちを眺めながら、お見合いの席で魔法の話題になったとき、彼女が「鳥も少々」と話していたのを思い出す。
「そういえば、あなたの鳥はどんな鳥なんですか?」
「私、鳥はまだまだなんです。とてもお見せできるものじゃなくて」
「それなら余計に見せていただきたい。上達する前と後と両方見れるなんて贅沢でしょう?」
 重ねて請うと、彼女は困り顔でうなずいてくれた。
「少し離れていてください」
 彼女は落ちていた小さな羽毛を拾うと、くるくると指先で回してから空に放った。
 ばさばさっと大きな音がして、飛び立ったのは青鷺だった。僕は思わず、うわっと声を上げてしまう。彼女は申し訳なさそうにこちらを見ると、
「すみません。小さい方が難しいんです」


豆本「魔女の嗜み」収録(レイアウトの都合で、収録作は若干修正しています)


2018.09.02 15:42(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

魔女の嗜み 第一話 薔薇を少々

 初めてのデートは、薔薇で有名な庭園だった。お見合いの席で「どんな魔法を?」と聞いたところ、彼女が「薔薇を少々」と答えたからだ。
 秋晴れの空はどこまでも高く、庭園の奥に植えられた針葉樹との境を雲が縁取る。日曜日ということもあり園内は混雑していた。僕たちは自然と寄り添って歩いた。
 満開にはまだ早く、三分咲きの薔薇は瑞々しい。順番を待つように、膨らんだ蕾が天を指していた。
「あなたの薔薇を見せていただいても?」
 朱色の薔薇を写真に収めていた彼女を、期待を込めて見つめる。彼女は少しはにかんで笑った。
「拙い技でよろしければ」
 彼女が若い蕾に触れると、蕾は見る間に膨らみ、ふわりと開いた。幾重にも重なる柔らかい絹のような花びらは淡いピンクで、元の木とは違う品種だ。可愛らしくも妖艶な大輪の花からは、甘い香りが漂う。
「すごい! こんなに美しい薔薇は初めて見ましたよ!」
 興奮して声を上げると、彼女は軽く目を瞠ってから、苦笑する。
「いえ、私なんて。まだ、この品種しか咲かせることができないのですから」



豆本「魔女の嗜み」収録(レイアウトの都合で、収録作は若干修正しています)

2018.09.02 15:41(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

季節の装い

 急に涼しくなると街に人が増えるのは、上着の準備が間に合わなかった透明人間が人間用の上着を羽織って出かけるためだ。
2018.09.02 09:46(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

移住

 庭に出ると、近所の人だろうか、二人のおばあさんが門の向こうからこちらを伺っていた。私が軽く会釈したところ、二人は顔を見合わせ、遠慮がちに話しかける。
「越して来られるの?」
「いえ、まだ見学で」
「何の店?」
「え? 店?」
 戸惑う私をよそに、二人は庭に入ってくる。
「なんだ、店じゃないのかい?」
「去年はパン屋ができたんだよ」
 私は思わず「すみません」と謝ってしまう。
「お医者さん? 学校の先生?」
「いえ、全然違います」
「それじゃ、あんたさんは何ができるの?」
「え、特に何も……?」
「お一人かね? 子どもは?」
「いませんが……?」
 そう答えると、「大谷んとこのは?」「どうかねぇ」と二人は何か相談して、
「あんたさん、おいくつかね?」
「四十三ですが」
「そんなに?」
 驚いた様子で、「子どもは無理かね」「いや今どきはわからんだろ」と小声で話しているつもりかもしれないけれど、完全に聞こえている。
「結婚するつもりはありませんし、子どもも無理だと思います」
 さすがに少し頭にきてきっぱり言うと、二人は揃ってため息をついた。
「何のために越してくるんだかわからないわな」
「どういうことですか?」
「車の運転くらいできるだろ?」
「ええ、まあ。車ないと困りますから」
 年季の入ったペーパードライバーだけれど、移住するなら車を買おうと思っていた。
「それならいいわ」
「なあ」
 おばあさんたちは渋々納得といった様子で帰っていった。
 釈然としないまま見送っていると、私をここに案内してくれた担当者が家から出てきた。おばあさんたちが帰るのを見計らっていたのだろう。
「いやいや、すみませんねぇ」
「何なんですか? さっきの」
「ああ、えっと、ほら。マレビトって知りません?」
「知りません」
「そうですか。うーん、どうしますか? 他の物件も見学されますか?」
 担当者は愛想笑いを浮かべながら、車のドアを開ける。予定ではあと二軒回ることになっていた。しかしもうそんな気分ではない。
「いいえ。結構です。今回はご縁がなかったということで」
「それなら仕方ありません。残念ですが」
 全く残念そうに見えない顔で、彼は私をそのまま駅まで送ってくれた。
 帰宅してから、おばあさんが話していたパン屋を調べようとネットで検索してみたけれど、あの村の情報はひとつも出てこない。見学の申し込みをした移住情報サイトも消えていた。なんだか不安になって覚えているうちに記録に残しておこうと、私はこうして

(発見者注:以降は空白)
2018.08.27 22:59(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

八月七日

 うなだれた扇風機が巻き上げるひと月遅れの紙吹雪。
2018.08.07 22:50(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |
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