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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

隣の芝生は青い

 隣の芝生は青い。夏の空のようで、ときどきのっそりと寝そべっているサモエドは入道雲に見える。
 折よく隣家の主人が庭にいるときに顔を合わせたから、何を撒いているのか尋ねてみた。
「レモンスカッシュですよ」
「なるほどなるほど」
 青春の色というわけだ。
 お宅は何を、と聞き返される。
「珈琲なんです。豆から挽いてまして」
「ほう、確かに渋い良い色合いですな」
「それが、最近娘が泡立てた牛乳ですかね、フォームミルク? そんなものを撒きだしまして」
 困ったものです、と私は庭の一角を指さす。
「ラテアートというらしいんですが」
 芝生に何やら絵が浮き出てきているのだ。



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「珈琲の超短編」投稿作
選外

http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2020/02/post-888e6c.html
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2020/08/post-ac5f49.html
2020.08.18 11:42(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

ロイド

 手を繋ぐ。その先はだんだん重くなる。夕方が焦げ付いた鍋に牛乳を注いで煮溶かす。昨日の月も今日の月も知らないまま、手を離す。
2020.08.15 19:08(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

鳥の影

 天井を鳥の影が横切る。部屋の中に鳥はいない。屋根の上にはいるだろうか。鳥の影は何度も通って行った。空は見えないのに。
2020.08.01 02:12(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

キックバック

 キャンペーン中につき、通常5%のところ、今月はあなたが流した涙の20%が雨として還元されます。
2020.06.13 12:59(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

鍵のなる木

 ひとつだけ選んだのはディンプルキーだ。爪先立ちで枝を引き寄せ、鍵を何度か捻ると、ぽきりと軽い音を立てて外れた。
 冷たく硬い、よく熟した鍵だ。銀色に輝いている。手に取って構えてみると、誂えたようにしっくりなじんだ。
「名を刻みましょう」
 案内人に促され鍵を渡す。彼は両手で鍵を挟み、拝むように額に当てた。
「何と?」
「烏の足音」
 初めから決めていたわけではなかったのに、鍵の名はするりと浮かんだ。
 返答の代わりに案内人の手の間から光が漏れる。それは一瞬で、彼はすぐに私に鍵を返した。
「開閉のたびに烏が訪れる、良い鍵です」
 案内人の言葉と共に、強い風が吹く。視界を遮る髪をかき分けると、私は延々と両側に扉が並ぶ廊下にいた。眩しいほどの明るさに目をつむる。ぎゅっと握った拳には冷たくて硬い鍵があった。
2020.05.12 18:50(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

クイーンズ・オフィス

 天井から伸びてきた蔓が、床に絵を描く。
 草原に赤い花。ひらひらと揺れるひれ。
 蔓は私の足に絡み、絵の上に引きずっていく。
 赤い丸い花で囲まれた私。
 同じ色を唇に塗って、蔓は天井に帰っていった。
 寝転んだまま見上げた天井には、黄色い花に囲まれたあなたがいる。
 私はあなたを見ている。あなたは寝ている。
 ずっと、ただ、それだけだった。
2020.04.22 22:45(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

無題

顔なじみの猫とすれ違ったとき、しっぽが触れただけで温かさと重さを思い出す夢。午前六時少し前。
2020.03.31 21:49(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

エスカレーター

 エスカレーターの手前で呼び止められた。
「あの、お一人ですか? 一緒に乗ってもいいですか?」
「は?」
 怪訝な顔を向けると、相手は足元を指差した。床に貼られたシートには注意書きがあった。
『安全のため、歩かずに2列でお乗りください』
 もう一度、首を傾げて見せると、
「1列で乗ると危険なんですよね? 一人でずっと困ってたんです」
 というわけで、今日は知らない人と並んでエスカレーターに乗った。
2020.02.15 18:33(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

無題

切り分けた端からきらきらの粉になり、記憶はどこまでもまとわりついてくる。
2020.02.11 17:19(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

魔女の願い

 長閑なはずの森が荒らされていた。金属がぶつかる音。人の声。魔女の眷属となった猫には、時折、木々の叫びも聞こえた。
 魔女が気付いたときにはすでに家は武装した兵士に囲まれていた。扉に鍵をかけ、防御の魔法を施すだけで精一杯。それほど長くもつものではない。
「あなたにはお使いに行ってほしいの」
 猫を抱き上げて、魔女はその首に光る木の実をかけた。
「これを届けてね」
 魔法樹の実は願いを聞いてくれる。ただし、叶えてくれるかどうかはわからない。叶ったとしても、いつになるのかわからない。
 今すぐ必ず願いが叶うなら、どれだけ良かったことだろう。
 猫は抵抗した。お使いなんて嘘に決まっている。
「ダメ。おとなしくして」
 魔女は猫の額を軽く突く。それだけで猫は動けなくなった。魔女は手早く魔法陣を描くと、猫を乗せた。意識を失う前、猫が最後に見たのは魔女の笑顔だった。
「あなたに幸せが訪れますように」
 遠くに飛ばされた猫は必死で魔女の家を目指した。けれども、やっと帰り着いたときには家もなく、魔女もいなかった。
 猫はぐったりと倒れこむ。魔法樹の実がころんと転がった。

「おかえりなさい」
 猫は懐かしい声に目を開ける。そこには魔女がいた。最後に見たときと変わらない。
「お使い、ありがとう」
 魔女に抱きしめられると、自分がみるみる元気になっていくのがわかった。
 時間が巻き戻っている。
 驚く猫に魔女は微笑んだ。
「今度は一緒に幸せになりましょうね」
 魔女が願った猫の幸せは、魔女の幸せでもあったのだった。




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本田モカさんの「魔法樹の実」という作品のおまけペーパーに掲載される「魔法樹の実のお話」のひとつとして書いたもの。
※ペーパー掲載作はこれよりもちょっと短いバージョンです。

本田モカさんのTwitter
「魔法樹の実」について


2020.02.05 21:03(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |
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