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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

十二月九日

 電極を刺して、骨を温める。熱が伝わり、凍っていた筋肉が溶け始める。皮膚が流れるより前に止めなくてはならないのが難しいところだ。
2017.12.09 11:21(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

いけないこと

 とても綺麗な芋虫だった。小指ほどの大きさの白い芋虫。薄い皮から透けた桃色が、歩く動きに合わせて揺らめき、オーロラのようだった。頭の先を指でつつくと、ひゅっと縮むのもかわいらしい。
 きっと綺麗な蝶々になるのだと思う。そうしたら、もう手のひらに乗せたりはできないだろう。きっと飛んで行ってしまう。
 どこにも行かないで。
 やわらかな背中を撫でる。ほんの少し力を込めると、オーロラが滲んだ。





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「20周年!もうすぐオトナの超短編」
たなかなつみ選 兼題部門(兼題:期間限定) 投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/02/20-acd9.html

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/12/post-36a6.html
兼題部門(兼題:期間限定)佳作
2017.12.05 21:27(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

「ひかり町ガイドブック」超短編 投稿作品2

【名所旧跡】
「結岬」
 人気のデートスポット。海を臨む広場のフェンスに南京錠をかけ愛を誓うと、その二人はずっと一緒にいることができると言われています。

【ものがたり】
『鍵師』
 どんな鍵でも開けますという看板を掲げているせいか、その鍵師の元には奇妙な依頼がたびたび舞い込む。今日は一組のカップルがやってきた。南京錠を外してほしいと言う。別れたいのだけど離れられないのだそうだ。二人の手首には、大きなハート型の南京錠で止められたチェーンががっちりと巻かれていた。
「チェーンを切ろうとしたんですけど、全然ダメで・・・」
 依頼人の男性が言う。
「それはそうでしょう。こういうのは、きちんと手順を踏まないと。ちなみに、どこですか?」
「ひかり町の結岬です」
「ああ、あそこは本物ですから」
「なんとかなりますか?」
 女性が心配そうに聞く。彼らは繋がれた手をめいっぱい伸ばして座っていた。目も合わせない。
 鍵師は苦笑しつつ、うなずく。
「ええ、この南京錠なら大丈夫です」
 彼らはそれぞれ安堵のため息をついた。鍵師は表情を改め、二人に諭す。
「次からはよく考えて、安易にこういうことをしないようにしてくださいね」



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※架空の町「ひかり町」の名所の紹介文とそれにまつわる超短編を書くというルールです。

2012年1月15日の超短編イベントへの投稿作品。

「ひかり町ガイドブック」超短編
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2011/12/post-6b1d.html

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2012/01/post-491c.html
佳作 受賞
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2017.11.10 23:15(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

「ひかり町ガイドブック」超短編 投稿作品1

【交通】
「ぐるりひかりロード」
 ひかり町の観光スポットをぐるっと巡れる動く歩道です。歩道から降りずに一周した場合、所要時間は三時間半です。けれども、ひかり町には素敵な場所がたくさんあるので、今のところ、歩道から降りずに一周した人は一人もいません。

【ものがたり】
『狩り場』
 地面が川のようになっているおかしな場所がある。そこで待っていると、小さい生き物がときどき流れてくる。ひょいとつまむと、何やら騒ぎ出す。ちょっとうるさいが、味はおいしい。



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※架空の町「ひかり町」の名所の紹介文とそれにまつわる超短編を書くというルールです。

2012年1月15日の超短編イベントへの投稿作品。

「ひかり町ガイドブック」超短編
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2011/12/post-6b1d.html

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2012/01/post-491c.html
優秀作品 受賞
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2017.11.10 23:15(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

十一月七日

 シリアルを盛ったお皿に豆乳を注ごうとしたら、白い塊が出てきた。うねうねととぐろを巻くようにシリアルの山を飾ったのは、どう見てもソフトクリームだった。仕方がないから、桃缶を切って載せてあげた。
2017.11.07 22:47(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

ライン

「あ、ライン来たよ」
 ユリが天を指す。
「縄じゃん」
「マジ太すぎ。どんだけ目立たせたいんだって」
 私の前に垂れ下がっているのは注連縄みたいなラインだった。先端にカナのアイコンが付いている。それを引いてメッセージを受け取るとユリが横から覗き込んだ。
「遅刻? ドタキャン?」
「遅刻。先に始めててだってさ」
 カナに返信して、予約した店に向かう。歩き出すと、ユリがまた天を指した。
「もう一本ライン来てない? 細いやつ」
 ほつれ糸のような頼りないラインだ。アイコンを見て、私は顔をしかめる。
「うわ、元カレだ」
「え、何、別れたの?」
 おいしい酒の肴を見つけたと言わんばかりのユリに、私は首を振る。
「違くて、生前の。ほら今お盆だからさ」
「あーあの人ね。律儀ていうか執念深いっていうか」
「私がなんで死んだか分かってないんじゃないの? 誰がお前のところに帰るかっつうの!」
 ふっと息を吹きかけると、現世からのラインは煙になって空気に溶けた。





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「20周年!もうすぐオトナの超短編」
松本楽志選 兼題部門:テーマ超短編「此処と此処ではない何処か」投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/02/20-acd9.html

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/11/post-aecc.html
2017.11.07 21:55(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

十一月六日

 電子レンジの上に置き忘れていた豆苗は、袋を突き破って成長し、天井も突き破って雲まで伸びた。
 のこぎりで切っておひたしにしたけれどおいしくなかったから、やっぱり豆は小さいほうがいいと思う。
2017.11.06 22:21(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

十一月三日

 雪の結晶を、三度。回しながら刻みつけると、私の中心は繊維状になった。そっと取り出す。少し黄ばんだそれは、ヘチマのスポンジのようだった。片手で握り、ぎゅっと絞る。溢れ出たものは、かつて球体だった何か。今はもうぐずぐずに崩れて、紫に染まっている思い出。
2017.11.03 01:24(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

ポイント

 いつもならたくさん人が降りる駅なのに誰も降りなかった。それどころかさらに人が乗ってくる。最初から混んでいた車内はぎゅうぎゅう詰めだ。
 同じ時間の電車の同じ車両に乗っているはずで、遅延もしていないし、どこかの路線が運転を見合わせているというアナウンスもない。天候も悪くない。祝日でもない。普通の木曜日だ。
 電車はゆっくり走り出す。地下鉄だから、駅を離れると窓の外は暗くなる。
 さっきの駅でいつも降りていた人たちはどこに行ったんだろう。知っている人なんてひとりもいないのに、私だけ間違った電車に乗ってしまったみたいで不安になる。今この車両に乗っている人たちはどこまで行くんだろう。昨日と何が違うんだろう。
 電車が大きく揺れる。後ろから押されて視線を上げると、電車が並走していた。車体の色からして同じ路線だ。こちらと同じくらいぎゅうぎゅうに混み合っている。そう思ったとき、押されなくなったことに気付いた。自分の周りにスペースが出来ている。明らかに乗客が減っていた。
 並走していた電車との距離が段々開いていく。それは、線路が分岐していくのに似ていた。向こうの車両との距離が開くにつれて、こちらの車両が空いていく。並走していた電車が見えなくなったとき、こちらに残った乗客はいつもと同じくらいの人数だった。皆、何事もなかったかのように、平然としている。
 次の停車駅のアナウンスが流れる。私がいつも降りる駅だ。しかし、本当にいつもの駅だろうか。日常と非日常、私は今どちら側にいるのだろうか。
2017.10.12 21:54(Thu)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

十月病

 今年も十月を踏んづけた。溶けたチョコレートが流れてくる。その上を電車がやってきて、私の目の前で止まった。一車両だけの電車には誰も乗っていない。止まったけれど、ドアは開かない。開けるためのボタンもない。戸惑う私を置き去りにしてベルが鳴る。電車は発車する。引きずられるように、チョコレートも流れていく。ただ甘い香りだけが残された。
2017.10.06 09:22(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |
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