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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

ぺぺぺぺぺ

 星間連絡船の中ではぐれてしまったぺぺが見つかったのは三年後だった。港からの通信でハコダテ星かアオモリ星かと飛び出そうとしたら、コウチ星だという。なぜそんなところに。驚くやら呆れるやら。一番はもちろん安心で、家族みんなで笑い合った。
 コウチ星の港まで迎えに行き、三年ぶりに会ったぺぺはずいぶん大きくなっていた。頭が二つに増えている。尻尾は五本もあった。
「行方不明登録の写真とはかなり違うんですがねぇ」
 どうですか、と首を傾げる職員に、私は何度もうなずいた。
「ぺぺです! ぺぺ!」
 呼びかけると片方の頭が振り向いた。
「ぺぺぺ!」
 もう片方も呼ぶ。どちらもうれしそうだ。五本の尻尾をくるくると旋回させて飛んでくる。
「もうどこかに行ったりしちゃだめよ」
 私は二つの頭をぎゅっと抱きしめた。


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500文字の心臓 第163回タイトル競作『ぺぺぺぺぺ』投稿作
【選評】○
2018.07.11 20:10(Wed)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |

魚と眠る

 欄干から見下ろす池は、蓮の葉が覆い尽くしている。僅かに覗く水面を錦鯉がちらちらと横切る。
 私は緋色の襦袢の裾をからげ、欄干を乗り越え、勢いのまま飛び降りた。
 蓮葉は私を受け止めることはなく、水音が箱庭の静寂を壊した。
 仰向けに沈む。緋色が溶ける。若い蕾が頭上で揺れる。蓮葉の隙間からキラキラと空を横切る白と赤の魚。
 欠伸をするとこぽりと泡がのぼっていった。すっかり空気が抜けた私は、目を閉じる。斑らになった襦袢がひらひらと揺らめいていた。


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500文字の心臓 第162回タイトル競作『魚と眠る』投稿作
【選評】なし

「絹本墨画淡彩」というタイトルで書きかけていたものを流用。
2018.05.22 21:55(Tue)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |

P

 休み時間のたびに、彼Qはうちの教室にやってくる。私Aの前の席が空なのを見て、あからさまにがっかりした顔をした。
「彼女Pは? どこ行ったの?」
「さぁ、わかんない」
 首を振ったけれど、本当は知っている。彼女Pは彼Bに会いに行っているのだ。次の授業が始まるギリギリに戻ってくる彼女Pは、いつも楽しそうに彼Bの話をするから。
「すれ違いばっかりなのに、なんで彼女Pを追いかけるの?」
 前から不思議に思っていたことを聞くと、彼Qは真剣な目で、
「そういう宿命なんだ」
 そして照れ隠しなのか、笑って付け足した。
「君Aにはわからないだろうけどさ」
「宿命……」
 その言葉はすとんと私Aの心に嵌った。
「わかるよ」
 私Aは大きくうなずく。目を瞠る彼Qに繰り返す。
「よくわかる」
 計算によると、彼Qと彼女Pは三日に一度は会うことができる。でも、私Aと彼Bはいつまで待っても出会えない。彼女Pは休み時間ごとに彼Bに会いに行けるのに。
「そういう宿命なんだね」
 ため息と一緒に飲み込むと胸が詰まった。


第153回タイトル競作『P』【選評】○△

微修正の上、豆本「超短編豆本 2017年春ノ巻」収録。

2017.01.30 22:05(Mon)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |

赤いサファイア

 彼女の瞳の色が気に入らなくて、青い宝石を押し込んだ。しかし、彼女の流した涙に染まって、宝石は青から赤に変わってしまった。
 俺の表情から落胆を読み取り、彼女は少し困ったように笑った。それがまた癪に障って、俺は舌打ちをする。ますます笑みを深める彼女の瞼に乱暴に口付けて、目尻から溢れた涙を舐めると、苺の味がした。




第139回タイトル競作【選評】◎○○△

豆本「赤いサファイア」収録

2015.06.06 20:06(Sat)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |

すいている

 毎朝目の前に立っている男の背後からこちらを睨みつけてくる女をちらちらと窺う彼の隣に本当は座りたいと思いながら対角線上のシートに座る私を隣の車両からじっと見つめているあなた。


第117回タイトル競作【選評】○△×××

豆本「きみがわるい」収録。

2012.11.01 23:44(Thu)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |

シェルター

 毎朝、玄関ドアの前に大量のカナブンが死んでいる。大小合わせて二十匹を超える。黒いやつも緑色のやつもいる。私は泣きそうになりながら、カナブンの死骸を箒で掃いてまとめ、ビニール袋に入れてすぐさまゴミ捨て場に持って行く。これが六日続いた。
 アパートの外廊下を見回しても、私の部屋の前以外には一匹もいないのだ。誰かの嫌がらせならまだましかもしれない。
 暗くなると、カツンカツンとカナブンが当たる音がし始める。ドアの上の明かり取りのすりガラスに小さな影がぶつかっているのが見える。部屋の灯りを消しても無駄だった。外が薄明るくなるまでカナブンの音は止まない。
 どうしてそんなにまでしてこの部屋に入りたいのだろう。私は真っ暗な中ヘッドフォンで音楽をかけ、必死に眠ろうとする。ベランダに出る窓は五日前からカーテンを開けていない。どうなっているか考えるだけで吐き気がする。これ以上続くとドアも開けられなくなりそうだ。


第116回タイトル競作【選評】◎◎○○○○△×(正選王)

豆本「きみがわるい」収録。

2012.09.17 16:54(Mon)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |

告白

 あの日、両親は親戚の法事に出かけ、私は一人で留守番していました。よく晴れていて、外に遊びに行けないのが残念でした。
 自分の部屋にいると台所の方から音が聞こえてきました。両親が帰ってきたのだと思って見に行くと、知らない女の人がいました。
「誰? どこから入ったの?」
 玄関には鍵がかかっていたはずです。女の人は私を振り返り、にっこり笑って食卓にお皿を置きました。
「ちょうど良かった、今呼びに行こうと思ってたの」
 私の質問には答えてくれません。お皿にはふんわりとしたオムレツが載っています。
 女の人は私に食べるように促します。
「嫌。いらない」
「さあ、召し上がれ」
 私が何度断っても女の人は聞き入れてくれません。笑顔でしたが、それが逆に怖かったのを覚えています。私はどうにもできず、恐る恐るオムレツを食べました。
 その後の記憶は曖昧です。両親が帰宅したとき、私は食卓で寝ていました。お皿は綺麗に片付けられ、女の人もいませんでした。
 母に謝りたかったのはこのことです。あのオムレツは母が作ってくれるものよりもずっとずっとおいしかったのです。



第112回タイトル競作【選評】○○○○×

製品カタログ19「パンドラ」収録


2012.04.08 02:34(Sun)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |

名前はまだない

 お母さんが再婚して、あたしには新しいお父さんができました。三人の生活も慣れないうちに、今度はきょうだいができることになりました。
「男? 女?」
「男の子だって」
「名前は?」
 そう聞くとお母さんは困った顔で首を振ります。
「ないの? だったらあたしがつけていい?」
 お母さんは隣りに座るお父さんを見ました。お父さんは大きくうなずいて、いいよと言ってくれました。
「ただし、男の子だからかっこいい名前にしてくれるかな」
 あたしは力いっぱい返事をします。
「もちろんだよ! だってあたしのお兄ちゃんになる人だもんね」
 そう言うと二人はにっこり笑ってくれました。
 お兄ちゃんは明日お父さんの前の奥さんのところからうちに引っ越してきます。それまでにかっこいい名前を考えないとなりません。それとも会ってから考えた方がいいのでしょうか。
「顔は? かっこいい? お父さんに似てる?」
「あんまり似てないかな」
 お父さんは実はそれほどかっこよくありません。だからお父さんに似てないんだったらお兄ちゃんはかっこいいのかも、と明日がますます楽しみになりました。

第88回タイトル競作【選評】○○○△△△
製品カタログ「赤い糸、白い糸」収録

2009.09.04 01:01(Fri)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |

頭蓋骨を捜せ

「ねぇ、まだ見つからないの?」
 彼女の声が直接頭に届いた。振り返ると、彼女は形の崩れた頭を両手で支えて、フェンスに寄りかかって座っている。
「まだに決まってんだろ」
 ここは骨男爵の庭と言われる広い草原。このどこかに骨男爵の奪った骨はあるはずだけれど、草しか見えない。
「てかさー、なんで俺が捜さなきゃならないわけ? よくわかんない男に付いて行くおまえが悪いんじゃねぇかよ」
「だってぇ、カッコよかったんだもん」
 うっとりとした甘い声が届く。頭にきた俺は、彼女の横のフェンスを蹴った。
「馬鹿じゃねぇの。やってらんねぇ。自分で捜せよな」
 そして、彼女の隣りに座る。
「じゃあ、あんたの骨貸してよ。自分で捜すから」
 彼女はふよんと顔の肉を揺らして、たぶん笑った。
「断る」
「何よ。キスしてやるって言ってんじゃない」
 体を引いた俺に体当たりするようにして、彼女は自分の唇を俺の唇に押し当てる。ぐっと吸い込んで、俺の頭蓋骨を抜き取った。
「ちょっと違和感あるけど、仕方ないか」
 彼女はそう言って、いつもと少しずれた顔で笑う。俺は柔らかくなった頭を両手で支え、「早く返せよな」と声を送った。

第83回タイトル競作【選評】○○○○○○×(正選王)
製品カタログ「はしばし」収録。
豆本「はしばし」収録。

2009.03.12 14:40(Thu)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |

ジャングルの夜

 口紅を中指ですくって下唇にのせる。その柔らかさを確かめるようにそっと指を滑らす。私が指を離すと、彼女は一度きゅっと口を閉じ、色をなじませた。
「今夜もずっと起きているのですか?」
 私が聞くと、彼女は笑った。紅玉で彩られた唇から真珠の歯が覗く。
「当たり前よ。何のために着飾っていると思っているの?」
 桔梗色に染めた瞼で小さな星が瞬く。長く伸ばした睫毛が、ほんのりと桜色の頬が、結い上げた髪に挿した銀の櫛が、金糸を織り込んだ青い衣装が、彼女を飾る全てが灯りを受けて輝く。
「もう下がってちょうだい。今夜こそ素敵な人が現れるわ」
 毎晩繰り返す台詞を同じように今夜も言って、彼女は椅子に座る。朝までそうやってオスがやってくるのを待つのだ。私は一礼して部屋から出た。彼女はもはや私のことなど見もしない。
 狭い階段を下りて外に出ると、もう日は沈んだ後だった。周囲の緑が闇色に変わっている。
 私は扉に鍵をかけた。着飾って待っていたって誰も来るはずないのだ。
 ふと見ると爪の間に先ほどの口紅が残っていた。自分の乾いた唇にこすりつけ舌先で舐めると、わずかに甘かった。


第79回タイトル競作【選評】○○×
豆本「ジャングルの夜」に加筆して収録。

2008.09.12 05:02(Fri)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |
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