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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

そらまめ工房団地

「そらまめ工房団地」は、さぼてんさんとの合同サイトでした。

絵をさぼてんさんが描いてそれに葉原が文をつける、またはその逆、という「絵と文」シリーズ、
色をテーマに競作する「カラーパレット」シリーズなどがありました。

2010年6月に閉鎖しました。
その際に、いくつかをこちらに再掲しました。

(ちなみに「オレンジ」は書いただけで、「そらまめ工房団地」にはアップしていないものです)
2009.08.03 23:30(Mon)| カテゴリー:そらまめ工房団地 | 個別表示 |

オレンジ

 最後の夕日が沈もうとしていた。空と雲を染め上げ、静かにゆるゆると燃えていた。
 この夕日が沈んでしまえばもう二度と太陽は昇らない。今日が終わっても明日は来ない。そう予言されていた。
 偉大な魔法使いはそれを食い止めるために、夕日をオレンジに変えた。
 最後の夕日が沈んでいないため、今日は真っ暗なまま続いていた。予言とは違う意味で明日は来なかった。

   ◆ ◆ ◆

 最後の夕日が突然消えた。世界は真っ暗になった。
 何もかも終わったのだと皆は嘆いた。しかし終わらなかった。真っ暗なまま世界は続いた。偉大な魔法使いが夕日をオレンジに変えたおかげだという話を聞き、少女は旅に出た。

 魔法使いの家は森の奥深くにあった。たどり着いた少女は普通の家のような外観に驚いたが、中に入ってもその感想は変わらなかった。魔法使いは物腰の柔らかい壮年の男だった。彼は少女を笑顔で出迎え、お茶を出した。大きな窓のあるその部屋は、太陽があれば午後になると日が差し込む居心地のいい部屋だった。
「いつ死ぬの?」
 テーブルを挟んで向かい合い、少女は魔法使いにそう聞いた。テーブルの中央には果物かごがあり、オレンジが一つ入っていた。
 魔法使いは一瞬だけ目を瞠ったが、すぐに笑顔を取り戻す。
「君も、いえ、あなたも魔法使いでしたか」
 少女は首を振る。
「勉強はしたんだけど」
 小さく呪文を唱え、カップに向かって指を振る。カップはカタカタと音を立て、わずかに動いただけだった。
「才能ないの」
「まさか」
「信じてないわね?」
 笑顔を崩さない魔法使いに少女は、まぁいいわ、と首を振って、
「それで、あなたはいつ死ぬの?」
 もう一度聞いた。
「太陽をオレンジに変えるなんて、そんな魔法、長くはもたないわ。命を削ってしまうでしょ? あなたが死んだら魔法は解ける。違う?」
「そうですね。ええ、あと十年ほどで魔法は解けます」
「十年・・・・・・」
 少女はため息をついた。
「他に方法は?」
「ないですね」
「試してみた?」
「もちろん」
「予言は変わっていないの?」
「ええ」
「あなたはどうしてそんなに落ち着いていられるの?」
 少女は魔法使いを睨みつける。
「あきらめてしまったから、でしょうか」
 魔法使いは首を傾げる。
「そう」
 少女は目を伏せた。
「あなたはそれでいいの?」
「ええ。もう十分生きましたからね」
「それは困るわ」
 少女は笑った。
「もうちょっと長生きしてもらわなくちゃ」
 少女は椅子から降りて、魔法使いの前に立つ。右手を差し出して、
「手を出して」
「こうですか?」
 魔法使いが同じように右手を出すと、少女は彼の手を握り締めた。その瞬間、部屋は光に包まれた。魔法使いは太陽があったころを思い出した。光は一瞬で消え、元の暗さに二人の目が慣れたとき、魔法使いは十歳ほど若返り、少女は少し成長していた。
「どういうことです?」
「私の時間をあなたに少し分けてあげたの」
 少女は無邪気な顔で笑う。成長しても、まだ少女と呼べる年齢だった。
「少しですか? これが? 才能ないなんてやっぱり嘘ですね」
 魔法使いはあきれた声で言う。
「才能はないの。これは体質だもの」
 少女は首を振ってそう答えてから、
「これで時間ができたでしょ。まだあきらめてもらったら困るのよ」
「そうですね。がんばりましょうか、もう少し」
 魔法使いは笑顔でうなずいた。少女も笑顔を返す。テーブルの上のオレンジを見る。
「最後の夕日、綺麗だったわ。また毎日見れるようになったら素敵よね」
「よく覚えてますね。百年前ですよ?」
「記憶力もいいのよ」
 少女は笑って片目を瞑った。


製品カタログ13「不思議な気持ち」収録。

2009.08.03 23:18(Mon)| カテゴリー:そらまめ工房団地 | 個別表示 |

春にはない花

 雪は冬になれば降る。毎年毎年、嫌ってほど降る。嫌って言っても降る。
 だからオレにとって雪なんて、珍しくもうれしくもない。
 今年は年末から親戚のハルカがうちに泊まりにきていた。親戚なんだからどこかで血が繋がっているんだろうけど、どういう繋がりなのかよく知らない。ハルカとは初めて会った。
 ハルカは雪が珍しいらしかった。外に出かけるたび積もっている雪を見ては、すごいすごいと騒いだ。
 今日は朝から雪が降っていて、それを見るなり遊びに行こうとオレを誘った。
「やだよ。寒いし」
「えーいいじゃん、寒いの慣れてるんでしょ?」
「慣れてても寒いもんは寒い」
 こたつにもぐりこんで特に見たくもないテレビをつけると、反対側からおじいちゃんの託宣が下った。
「トオル、連れて行ってやりなさい。ハルカは明日帰るんだから」
 おじいちゃんの言うことは聞かないわけにはいかない。オレは渋々ハルカと外に出た。
 雪はどんどん降っていた。オレたちは小学校に行くことにした。
「すごい、音がする!」
 ハルカは歩くと雪が鳴るのをおもしろがっていた。何度も転びそうになって悲鳴を上げ、その度にオレは、
「いいから、まっすぐ歩けよ」
 と、ハルカを振り返った。
 小学校の校庭はいつも通りに真っ白だった。オレにとっては何も珍しくない。とりあえず、昇降口の軒下に入る。
「オレ、ここにいるからな」
 そういうオレの声を聞いているのかいないのか、おかまいなしにハルカは雪の中に両手をつっこんでひとりで笑っていた。
 変な子だと思っていた。いつも楽しそうにしていた。何が楽しいのかオレにはわからない。
 ハルカは両手で持てる大きさの雪ダルマを作って、オレの隣りに置いた。
「ね、雪合戦しようよ」
「やだよ。寒いし」
「えー、私、明日帰っちゃうのにさ」
 そう言いながら、雪ダルマの向こうに座る。
「ほんとに明日帰るのかよ?」
「帰るって言ったら雪合戦してくれる?」
「帰るってどこ?」
「秘密」
「んだよそれ」
 オレは足を伸ばして花壇の木を蹴った。雪が落ちる。ハルカは笑った。
「雪がさ、花みたいだよね」
「はぁ?」
「木の枝に」
 ハルカは花壇の方を指差す。オレには雪は雪にしか見えない。
「私さ、三月四日生まれなの」
 ハルカは突然言った。
「オレと同じじゃん」
「そう。だって、私あんたの双子の妹だもん」
「はぁ?」
「生まれてすぐに養子に出されたの」
「え?」
 何を突然言ってるんだ、と思った。意味がわからない。ハルカの顔は真剣だ。珍しく笑っていない。
 何かちゃんとしたことを言わなきゃ、と思ったけど、何も思いつかない。
「それ、ほんとに?」
 やっとそれだけ聞く。
「なわけないじゃん。信じたの?」
 ハルカは笑った。やけに大きな声が響く。
「騙したのかよ!」
「騙されたの? あんなんで?」
 オレはハルカの持ってきた雪ダルマを放り投げると校庭に飛び出した。雪を掴んで、適当に丸める。ハルカに投げた。
「わっ! ずるい。やるならやるって言ってよ!」
 ハルカも校庭に飛び出して、オレに雪を投げる。
「あんたって単純。雪合戦やりたくないって言ってたのにさ」
「うるさい!」
 力任せに雪を投げたら、ハルカの頭に当たってしまった。ハルカは頭を押さえて座り込む。
「あ、わりぃ。大丈夫か?」
 近づくと、すくった雪をかけられた。
「うわっ! んだよ!」
「あはは」
 ハルカは笑いながら雪の上に仰向けに寝転がる。いつのまにか雪は止んでいた。
「あーあ」
 笑い声がため息みたいになって止まる。オレはハルカを見下ろした。
「お前、おかしいよ。なんでそんな無理やりみたいに笑ってんだよ?」
「だって、私が楽しくしてないと皆がかわいそうじゃない?」
 ハルカはそう言ってから、オレを見上げて笑う。
「また騙されてる?」
「お前の言うことは信じねぇよ」
 オレがそう言うと、ハルカは両腕で顔を覆った。
 前髪に雪が白く付いていて、花みたいってさっきハルカが言った意味がわかった気がした。
 今ハルカが泣いているのか笑っているのか、オレにはわからない。
 帰り道は手をひっぱってやってもいいかもしれないと思っているオレは、やっぱりまた騙されているのかもしれなかった。

製品カタログ13「不思議な気持ち」収録。


2008.01.12 22:58(Sat)| カテゴリー:そらまめ工房団地 | 個別表示 |

雪の庭

 雪が降っていた。水気の多い雪である。地面に落ちると自分の重みでぺしゃりとつぶれてしまう雪だった。
 一匹の三毛猫が古い民家の軒下にいた。黒の部分が多めのその三毛猫は、寒がる様子もなく雪を見ていた。
 民家は半ば朽ち果てていて、明らかに人間の手を離れて久しい風情であった。ときおり近所の子どもたちが冒険に訪れるのか、小さなプラスチックのスコップが墓標のごとく、葉の落ちた紫陽花の根元に突き立っている。新しいとは言い切れないスコップだったが、その黄色は、色彩に乏しい庭の中では十分に鮮やかで目を引いていた。
 いや、もうひとつ、色があった。
 山茶花の赤である。山茶花は深い沼のような緑の葉に点々と雪を載せ、しっとりとした赤い花を咲かせ、また散らせている。家が捨て置かれてから剪定されることもなかったのだろう、山茶花は好き勝手に枝を伸ばしていた。
 三毛猫は山茶花を見上げた。雪がその視線を逆に辿るように舞い落ちる。
 ふ、と三毛猫は笑う。
「翡翠」
 山茶花の向こうに声をかけた。
「いるのでしょう?」
「ああ、いる」
 猫以外には誰もいない庭から声がそう答えた。低い男の声だ。驚いたようだった。
「なぜわかった?」
 男の声がそう聞く。
「なんとなく。風が動いたので、もしかしたら翡翠かと思っただけですよ」
「なんとなく?」
「ええ、なんとなく」
 く、と男の声は笑う。
「返事などしなければよかったな」
「それは困りますね」
「ほう、困るか」
「私の独り言になってしまうではないですか」
「はは。ますます返事などしなければよかったな。お前が困るところなど滅多に見れるものではない」
 からかう声に、猫はしっぽをぱたんと揺らした。しっぽは二つに割れている。
「翡翠、出てきませんか? 寒くはないんですか?」
 猫に答えるように、山茶花のすぐ隣りに和装の男が現れた。向こうが透けている。半透明だった。
「特に寒くはないな」
「そうですか」
「そうだ」
 翡翠と呼ばれた男はゆっくりと軒下に入る。歩く音はしない。彼は曇ったガラス戸に寄りかかったが、戸や壁が軋むことはなかった。
「湖冬、お前はどうなのだ? 猫は雪が嫌いなのではないのか?」
「私は嫌いではないですよ。雪は何もかもを真っ白に覆い隠してくれますからね」
 湖冬と呼ばれた猫は翡翠を見上げる。
「なんだ。隠したいことでもあるのか」
「あなたにはないのですか?」
 翡翠は一瞬ふと口をつぐみ、
「あるな」
 笑った。
「でしょう」
 湖冬は言って、山茶花を見る。翡翠も湖冬にならう。
 降り続ける雪が落ちた花びらを塗りつぶしていた。赤を白がゆっくりと隠す。
「酒が欲しいな」
 翡翠が言う。
「贅沢ですね。雪だけで十分でしょう」
 湖冬が笑う。
 朽ちかけた庭は真新しい白に生まれ変わりつつあった。
2008.01.02 23:15(Wed)| カテゴリー:そらまめ工房団地 | 個別表示 |

おとぎ話じゃないんだから

 海で自分を助けてくれた人魚に会いたくて、声を渡す代わりに海で暮らせるような体に変えてもらう人間の王子様の話。小さい頃によく聞かされたおとぎ話だ。
 もうこの年になってそんな夢みたいなこと信じているわけじゃないけれど、人間の暮らしにはとっても興味があった。だから、あたしはいつも暮らしている小さな島の沖合いから、もっと人間のたくさん住んでいる大きな島を目指してでかけた。
 もちろん家族には秘密だ。
 今日は学校に行っていることになっている。夜までに家に帰れば誰にも気付かれないと思った。
 振り返ると、海の中の街は薄ぼんやりと光りながら揺らめいていた。
 陸地に近づくにつれ水温が少しずつ上がる。大きな建物が波の向こうに現れたり消えたりするのがおもしろくて、あたしは水面に顔を出したまま泳いだ。
 港の側は船が通るから危ない。砂浜の側は浅瀬のせいで陸地に近づけない。あたしは海岸線にそってぐるりと回り、岩場に近づいた。
「うぉ!」
「え?」
 突然、近くで誰かの声がした。
 右側から水音。誰かいるのだ。
 あたしは一旦水に潜る。海の中から辺りを見渡すと、少し先の方に人間の体が見えた。足がある。
 あたしは慌てて、その足を追いかけ、手でつかんだ。
「ちょっと待って!」
 足をひっぱられた人間は、海の中に沈んであたしを見た。驚いた顔をしている。ごぼごぼと空気を吐き出した。あたしがつかんでいない足で、あたしを蹴ろうとする。
「あ、そっか。ごめんなさい」
 あたしは慌てて手を離す。人間は水の中では息ができないのだ。
 あたしが水から顔を出すと、その人間は苦しそうに咳き込んでいた。
「ごめんなさい! 大丈夫? えっと、あ、こっち」
 あたしはその腕をひっぱり沈まないように支えながら、見つけた小さな岩まで連れて行く。人間は岩にしがみつき何度か咳を繰り返した。
 人間はあたしたちとは違って、肌が茶色っぽかった。その短い髪も人魚にはない。言葉が通じるのか、あたしは少し不安になった。
「あの、あたしの言葉分かる?」
 恐る恐る聞くと、人間はうなずく。落ち着いたのか咳はおさまったみたいだった。
「ね、あなたって王子様?」
「あんた、もしかして人魚姫?」
 あたしと人間は同時にそう聞いた。
「え?」
「はぁ?」
 お互いにぽかんとした顔。
「あたし人魚だけど、姫じゃないわ」
「王子様なんて今時いねぇよ」
 そして、同時にこう言った。
「おとぎ話じゃないんだから」
「おとぎ話じゃねぇんだからよ」
 それから、あたしたちは同時に笑い出した。
「そうだよな。人魚姫は人間の足をひっぱって海にひきずりこんだりしねぇよな」
「そうよ。王子様は人魚を蹴ろうとなんてしないわよね」
 そう、あたしは王子様じゃなくて人間に会いに来たんだった。
 人間は岩に登り腰掛けた。かき上げた短い髪が太陽に透ける。雫がキラキラ反射している。
「あたしはローラって名前なの。ね、人間にも名前がある?」

製品カタログ13「不思議な気持ち」収録。

2007.03.21 23:05(Wed)| カテゴリー:そらまめ工房団地 | 個別表示 |
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