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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

魔女の嗜み 第二話 鳥を少々

 二度目のデートは大きな池のある公園にやってきた。秋風がどこかにある金木犀の香りを運ぶ。さざ波立った湖面に魚影がきらりと光る。
 僕らは手を繋いで橋を渡った。ボート乗り場で顔を見合わせ、二人揃って首を振る。カップルでボートに乗ると別れる都市伝説を彼女も知っていたかはわからない。
 スワンボートの脇を鴨が泳いでいく。沈んでしばらく顔を出さないのは鵜だろうか。一方、足元では僕らの間を鳩が邪魔する。そんな鳥たちを眺めながら、お見合いの席で魔法の話題になったとき、彼女が「鳥も少々」と話していたのを思い出す。
「そういえば、あなたの鳥はどんな鳥なんですか?」
「私、鳥はまだまだなんです。とてもお見せできるものじゃなくて」
「それなら余計に見せていただきたい。上達する前と後と両方見れるなんて贅沢でしょう?」
 重ねて請うと、彼女は困り顔でうなずいてくれた。
「少し離れていてください」
 彼女は落ちていた小さな羽毛を拾うと、くるくると指先で回してから空に放った。
 ばさばさっと大きな音がして、飛び立ったのは青鷺だった。僕は思わず、うわっと声を上げてしまう。彼女は申し訳なさそうにこちらを見ると、
「すみません。小さい方が難しいんです」


豆本「魔女の嗜み」収録(レイアウトの都合で、収録作は若干修正しています)


2018.09.02 15:42(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

魔女の嗜み 第一話 薔薇を少々

 初めてのデートは、薔薇で有名な庭園だった。お見合いの席で「どんな魔法を?」と聞いたところ、彼女が「薔薇を少々」と答えたからだ。
 秋晴れの空はどこまでも高く、庭園の奥に植えられた針葉樹との境を雲が縁取る。日曜日ということもあり園内は混雑していた。僕たちは自然と寄り添って歩いた。
 満開にはまだ早く、三分咲きの薔薇は瑞々しい。順番を待つように、膨らんだ蕾が天を指していた。
「あなたの薔薇を見せていただいても?」
 朱色の薔薇を写真に収めていた彼女を、期待を込めて見つめる。彼女は少しはにかんで笑った。
「拙い技でよろしければ」
 彼女が若い蕾に触れると、蕾は見る間に膨らみ、ふわりと開いた。幾重にも重なる柔らかい絹のような花びらは淡いピンクで、元の木とは違う品種だ。可愛らしくも妖艶な大輪の花からは、甘い香りが漂う。
「すごい! こんなに美しい薔薇は初めて見ましたよ!」
 興奮して声を上げると、彼女は軽く目を瞠ってから、苦笑する。
「いえ、私なんて。まだ、この品種しか咲かせることができないのですから」



豆本「魔女の嗜み」収録(レイアウトの都合で、収録作は若干修正しています)

2018.09.02 15:41(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

季節の装い

 急に涼しくなると街に人が増えるのは、上着の準備が間に合わなかった透明人間が人間用の上着を羽織って出かけるためだ。
2018.09.02 09:46(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

移住

 庭に出ると、近所の人だろうか、二人のおばあさんが門の向こうからこちらを伺っていた。私が軽く会釈したところ、二人は顔を見合わせ、遠慮がちに話しかける。
「越して来られるの?」
「いえ、まだ見学で」
「何の店?」
「え? 店?」
 戸惑う私をよそに、二人は庭に入ってくる。
「なんだ、店じゃないのかい?」
「去年はパン屋ができたんだよ」
 私は思わず「すみません」と謝ってしまう。
「お医者さん? 学校の先生?」
「いえ、全然違います」
「それじゃ、あんたさんは何ができるの?」
「え、特に何も……?」
「お一人かね? 子どもは?」
「いませんが……?」
 そう答えると、「大谷んとこのは?」「どうかねぇ」と二人は何か相談して、
「あんたさん、おいくつかね?」
「四十三ですが」
「そんなに?」
 驚いた様子で、「子どもは無理かね」「いや今どきはわからんだろ」と小声で話しているつもりかもしれないけれど、完全に聞こえている。
「結婚するつもりはありませんし、子どもも無理だと思います」
 さすがに少し頭にきてきっぱり言うと、二人は揃ってため息をついた。
「何のために越してくるんだかわからないわな」
「どういうことですか?」
「車の運転くらいできるだろ?」
「ええ、まあ。車ないと困りますから」
 年季の入ったペーパードライバーだけれど、移住するなら車を買おうと思っていた。
「それならいいわ」
「なあ」
 おばあさんたちは渋々納得といった様子で帰っていった。
 釈然としないまま見送っていると、私をここに案内してくれた担当者が家から出てきた。おばあさんたちが帰るのを見計らっていたのだろう。
「いやいや、すみませんねぇ」
「何なんですか? さっきの」
「ああ、えっと、ほら。マレビトって知りません?」
「知りません」
「そうですか。うーん、どうしますか? 他の物件も見学されますか?」
 担当者は愛想笑いを浮かべながら、車のドアを開ける。予定ではあと二軒回ることになっていた。しかしもうそんな気分ではない。
「いいえ。結構です。今回はご縁がなかったということで」
「それなら仕方ありません。残念ですが」
 全く残念そうに見えない顔で、彼は私をそのまま駅まで送ってくれた。
 帰宅してから、おばあさんが話していたパン屋を調べようとネットで検索してみたけれど、あの村の情報はひとつも出てこない。見学の申し込みをした移住情報サイトも消えていた。なんだか不安になって覚えているうちに記録に残しておこうと、私はこうして

(発見者注:以降は空白)
2018.08.27 22:59(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

八月七日

 うなだれた扇風機が巻き上げるひと月遅れの紙吹雪。
2018.08.07 22:50(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

普段の階段

 身体は、朝に上って夜には下る。
 心は、朝に昇って夜には沈む。
 歪な私は、朝に登れず夜には落ちる。
2018.08.01 19:53(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

七月三十日

 立ちくらみがするとき、ほんの少し世界がずれる。二千回目に私はきっと振り落とされるだろう。
2018.07.30 23:53(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

Smart mother

「腹減ったなー」
「そう? 私はまだ減ってないわ」
「俺は減ったんだよ」
「私はまだよ」
 首を振るママにパパは「そうじゃなくてさ」と苛立った声を上げる。
「そうじゃないのはパパの方だよ」
 僕はテレビを消すと、ママを呼ぶ。
「ママ!」
「はい? どうしたの?」
「僕、お腹がすいちゃった。ミートソーススパゲティを作ってよ」
「ええ、いいわよ」
「あ、二人分、作ってね」
「はあい」
 ママは微笑んで、僕の頭を撫でてキッチンに向かう。
 パパを振り返ると何とも言えない顔をしていた。
「いい加減、覚えなよ」
 僕は取扱い説明書を開いたタブレットをパパに押し付けた。
2018.07.29 20:58(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

銀のエンゼル

 なんとなく買ったチョコボールを開けて、私は歓声を上げた。
「わー、初めて見る! 銀のエンゼル!」
 祖母に見せると、「ちょっと待ってね。確かこの辺に」と、台所の引き出しを探る。
「ほら、何枚かあるでしょ?」
 祖母が渡してくれたビニール袋には三枚、銀のエンゼルが入っていた。
「すごい! おばあちゃんが集めたの?」
「まさかー」
 ふふっと笑って祖母は袋から出したエンゼルを裏返す。
 そこには、亡くなった父の名前が書いてあった。
2018.07.28 14:55(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

七月二十五日

 昔の自分を棚に載せると、ぼた餅が落ちてきた。
2018.07.25 09:21(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |
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