HOME > オレンジ宇宙制作室

オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

さつき病

「先生、私、もうひつじには戻れないのでしょうか」
「やはり、つつじの影響が大きくてですね」
 説明を聞いている間にも、私は鮮やかなピンク色に染まっていった。
2019.05.07 22:52(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

瀕死の残高

「先生、私の残高はもう助からないのでしょうか」
「手を尽くしたのですが」
 遠くでかすかに小銭の音が響いた気がした。
2019.05.06 17:50(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

非双方向コミュニケーションの顛末 ― (4)破裂

 帰宅した彼女は買い物袋を床に置いたまま、しばらく携帯電話を操作していた。元気がない様子で、いつもなら彼女が帰ってくるとぱっと明るくなる室内がどんよりとしている。
 携帯を放り出すようにテーブルに置き、大きなため息。
『何かあった? 大丈夫?』
 当然僕の声は届かない。
 彼女は買い物袋の中身を冷蔵庫にしまい、惣菜のパックはそのまま電子レンジに入れた。
 うなるように稼働するレンジをぼーっと見つめている。
 僕が周りをうろうろしているせいもあるのだろう。黒いもやが彼女の頭に埃のようについていた。このままだと頭痛に見舞われるかもしれない。
『どうしたらいいかな』
 払ってあげたくて手を伸ばすけれど、余計にもやが集まってしまい逆効果だった。
『しっしっ! あっち行けって!』
 彼女に近付かないように注意して意識を集中する。僕の影響で集まってくるくせに、僕の思い通りにはならない。
『くそっ!』
 悪態をついた瞬間。
 ぼんっ!
 大きな音がした。
『うわっ!』
「きゃっ!」
 僕と彼女の声が重なる。
「え、何? わ、やば」
 彼女は慌ててレンジのドアを開けた。
「うわぁー。爆発してるし」
 イカの天ぷらが破裂している。パックも変形して、庫内に衣が飛び散っていた。
「あー、びっくりした。何これ、イカって爆発するの?」
 途方に暮れたような顔が、段々と笑顔に変わる。くすくす笑う彼女の周りにはもう黒いもやはなかった。
 この爆発が僕の力なのか単なる偶然なのかわからないけれど。
 少しだけ元気を取り戻した彼女は破裂したイカ天をおいしそうに食べていた。
 そのあと「衣が取れない」と電子レンジの掃除に苦労していた彼女に、僕は少しだけ申し訳なく思った。
2019.04.29 21:41(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

非双方向コミュニケーションの顛末 ― (3)僕の定位置

『あっ!』
 引っ越し業者がベッドを動かすのを見て、僕は大きな声を上げてしまった。もちろん誰にも聞こえていない。
 ベッドが置かれたのは僕の定位置、鎖の根元。要するに死んだ場所だった。
 そこに置かれたところで僕が困ることはないのだけど、彼女は寝苦しく感じるかもしれない。それが原因で早々に出て行かれたら嫌だ。僕はなんとか阻止しようとベッドを持ち上げている業者の男にしがみつく。僕の腕は彼の体をすり抜けてしまうけれど、そこは気合いだ。
「ぶぇくしっ! すみませっ! っく!」
 僕の思いが通じたのか、彼は突然くしゃみが止まらなくなったようだ。ベッドの反対側を持っていた男が、
「大丈夫か? いっぺん下ろすぞ」
「っし! す、ません!」
 目的の場所の手前でベッドは床に下ろされた。しかし、この後はどうする? あまりやりすぎると不審に思われて、寝苦しい以前の問題で出て行ってしまうだろう。
 僕は頭をひねった。
「あの、ちょっと配置変えていいですか? なんかベッドはその位置の方がしっくりくる気がして」
 家具が運ばれるのを見ていた彼女がふいに口を開いた。
『えっ?』
 そんな都合のいいことがあるだろうか。僕は知らないうちに彼女にも何かしてしまったんだろうか。
 僕は彼女の目の前に立つ。顔を覗き込む。
『僕が見えてる?』
 何の反応もない。彼女の視線は僕を通り越している。
 彼女は僕を避けずにすり抜け、業者の二人に近づいた。
『わっ!』
 ぎょっとしたのは僕の方だ。思い切り顔と顔がぶつかったのだ。感触はないけど。
 結局、ベッドの位置は変わり、僕の鎖の根元には腰高の棚が置かれた。僕が座るのにちょうどいいけど、きっと上に何か載せるんだろうな。
 案の定、棚の上には多肉植物の寄せ植えが飾られた。けれど、一ヶ月も経たずに枯れてしまう。それ以降、彼女は雑誌を積み上げるようになり、僕の定位置はその上になった。
2019.04.27 21:03(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

非双方向コミュニケーションの顛末 ― (2)出会い

 彼女との出会いは六年前だ。
 その前の住人は霊感が強かったのか、相性が悪かったのか、毎晩うなされていた。結果、一ヶ月も経たずすぐに出て行った。
 ラップ音がするとか金縛りにあうとか、僕をダシに恋人に同棲を迫ったうえに結婚前提の約束まで取り付けたんだから、彼にとっては悪くなかっただろう。僕に感謝してほしいくらいだ。だけど心霊現象は濡れ衣だ。僕はただ部屋にいただけ。まあ、少し運動したり、彼の寝顔を覗き込んだりはしたけど。
 彼女が内覧に来たのは、前の住人が引っ越してから二週間後だ。
 彼女が部屋に入った瞬間、ぱあっと辺りが明るくなったような気がした。空気が変わる。じわりと温かい。彼女が踏み入れたところから、綺麗になっていく。
 僕が意図しなくても、良くないものが集まってしまう。それは雑霊とも呼べないごくわずかなものだ。元気な人であれば自然に払いのけられるものだけど、彼女はあっという間に消していった。
 存在が強いのだろう。それなのに、不思議と僕に対する圧力はない。死んでから十五年くらいだけど、今までこんな人はいなかった。
 ぜひともこの人に引っ越してきてもらいたいと、僕はめいっぱい歓迎した。不動産屋が窓を開けたらさりげなくそよ風を起こし、柱やドアについている傷は見えにくいように影で覆った。
 彼女はいくつか不動産屋に質問し、一通り見てから出て行った。ここに住むかどうかは話さなかったから僕にはわからない。彼女を観察した限りでは感触は悪くなさそうだったけれど。
 それから、気が気じゃない数日が過ぎた。この部屋に繋がれている僕にはどうなったのか確かめる術がない。
 次に部屋を訪れたのは鍵を付け替えにきた業者だ。ということは、もしかして。僕は期待に胸を躍らせて、さらに数日を過ごした。
 新しい鍵で彼女がドアを開けたとき、僕は思わず大きな音を立ててしまった。どきどきして彼女の反応を見たけれど、特に気づかなかったようだ。
 そのときはそう思った。
 でも、彼女が本当に気づかなかったのか、今はあまり自信がない。
2019.04.26 20:27(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

非双方向コミュニケーションの顛末 ― (1)引っ越し

 部屋の片づけを始めた彼女が引っ越すつもりだと僕が気づいたのは、ダンボールが数個積み上げられてからだった。
『僕に相談もなくそんな大事なことを決めるなんて』
 当たり前だとわかっていたけれど、嘆かずにはいられなかった。
 次々と仕舞われていく彼女の大事なもの。何のためらいもなく捨てられていく要らないもの。僕も捨てられる方なんだろう。いや、置いていかれるのか。
 引っ越し当日。玄関ドアを開けた彼女は、業者が荷物を運び出した後のがらんとした部屋を振り向いた。見送りに出た僕は、聞こえていないし見えていないと知りつつ『元気でね』と手を振った。
 彼女がいないこれからの日々を想像する。こんなに相性のいい同居人はもう現れないと思う。
 そうだ。いっそのこと彼女に取り憑いてやろうか。そうしたらずっと――。
 僕は彼女に手を伸ばす。今のこの気持ちなら届くかもしれない。いつも向こうが透けている自分の手が、黒いもやを纏っている。
 僕の手が到達する寸前、彼女はふわりと微笑んだ。
「今までありがとう」
『えっ!』
 驚きの声を上げる僕。しかし彼女と目が合うわけではない。一人暮らしなのに「いってきます」と「ただいま」を欠かさない彼女だ。おかしくはない。
『あなたには敵わないな』
 肩透かしを食った僕は苦笑する。僕の手はもういつもの半透明に戻っていた。彼女の髪を引っ張ろうとしてもすり抜けてしまう。
『さようなら』
 力を込めるとほんの少しだけ空気が動いて、彼女の髪が微かに揺れた。
 彼女は微笑んだまま、首を傾げた。
「一緒に来る?」
 今度こそ目を見開いて、僕は彼女を見つめた。やはり彼女の視線は僕から少しずれている。しかし、そんなことは瑣末だ。僕は震えながら、うなずいた。
 その瞬間、何が切れた。
 そして、新しく繋がった。
 僕の鎖の根元がこの部屋から彼女に移ったのだ。
 彼女が外に出る。僕も一緒に外に出る。
 最後に部屋を出たのはいつだっただろう。眩しい初夏の日差しに、影のない自分の足元。
 彼女は僕を振り返らずに歩き出す。僕は彼女の後を追いかける。
 本当は見えているんじゃないのかと、これまでも疑ったことがあった。いろいろ試して、その度に期待は外れた。でも、もうどちらでもいい。僕は彼女のものだから。
2019.04.25 08:53(Thu)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

大きな山

 大きな山の上には夜空が広がっていて、夜空は限りの見えない宇宙に続いている。宇宙からはときどき隕石が落ちてくる。だから、畳には小さな焼け焦げがたくさんできてしまった。大きな山は私の部屋にある。
2019.04.07 08:44(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

雪子たち

 とても白くてかわいらしい女の子だった。
 だから、僕らは雪子と名づけた。
「かわいい」
 そう言って君が抱きしめたら、雪子は溶けてしまった。
 君は泣きそうになって僕を見る。
「大丈夫」
 僕はそう言って君を抱きしめた。
「明日になったらまた生まれるよ」
 僕の腕の中で君も溶けてしまって、僕はもう一度繰り返す。
「大丈夫。明日になったらまた会える」



--------------
2019年3月21日開催の「第8回Text-Revolutions(テキレボ)」内ユーザー企画
第7回300字SSポストカードラリー
お題:雪
http://300.siestaweb.net/

上記企画で作成したポスカの本文です。


--------------
2005年11月発行のオレンジ宇宙工場製品カタログ7「無責任の心得」より。少し修正。
初出は「短冊ロマンティカ」への投稿。
2019.03.30 12:03(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

黒いブーツ

 かつんと鳴る踵から、小さな星が弾け飛ぶ。
 底が剥がれたつま先は、ぺふんぺふんとため息を吐く。
 この踵とつま先が、雨でも雪でも跳ね除けてくれるから。
2019.02.06 23:38(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

無題

夜、二人、髪の結び目を切る。
2019.01.19 00:22(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |
<< | 2 / 50 | >>

アーカイブ

作品検索