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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

私の設定

 左手首の内側にある三点リーダのようなほくろを押すと、設定画面が開いて、私の名前や性別を変更できます。再設定には少し時間がかかりますので、余裕がないときや空腹時は避けてください。
2019.06.01 17:47(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

非双方向コミュニケーションの顛末 ― (7)芍薬

 朝起きて明かりを点けた彼女は何度か瞬きをした。首を傾げて天井を見る。
「なんか暗い? 蛍光灯切れるのかな?」
『それ、僕のせいだ。ごめん』
 彼女は「まだ点いてるし、このままでいっか」と、身支度を始める。
 いつもなら着替えを見ないように洗面所に移動したりするけれど、今日の僕は定位置から動けない。俯いたのは彼女に気を使ったためだけではない。自然とそうなってしまうのだ。全身が重い。気分が悪い。
 僕がそんなだから、部屋が暗く見えるのだろう。
 彼女が出かけてからも、僕は棚に腰掛けて一日過ごした。生きていたときの思い出を繰り返し再生した。死んだ瞬間も何度も何度も何度も――。
「ただいまー」
 彼女の声に、唐突に視界が晴れた。
「って、誰もいないけどね」
 少し照れたように自らつっこみ、彼女は明かりを点け、ベッドにカバンを投げた。
 彼女の一挙手一投足に部屋に巣食っていたもやが弾き飛ばされていく。室温が上がる。
 鼻歌を歌いながら洗面所から出てきた彼女は、僕が座る棚の前にやってきた。
『うわっ!』
 僕のことが見えていない彼女は平気で僕の体に手を伸ばす。彼女の腕が腹を突き抜ける寸前に、僕は棚から飛び退いた。
『あ、動ける』
 あんなに重かったのに常態に戻っている。たぶん彼女のおかげだ。
 僕の視線に気づかずに、彼女は花瓶を置いた。ガラスの細い花瓶には一輪だけ挿してあった。ころんと丸く大きなピンクの蕾。
『何の花? 薔薇じゃないよね?』
 僕の疑問に彼女が答えてくれるわけもなく、僕はその花の名前を何年も知らないままだった。
 好きな花なんだろう。彼女は毎年飾った。
 それが僕の命日と被るのは二年に一度くらいだった。だからきっと偶然だ。
2019.05.26 17:32(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

納期は一緒

 ドアを開けると案件B。
「来ちゃった」
 案件Bの背後から現れる案件C。
「私も来ちゃった」
 部屋の中から「早くー!」と案件Aが急かす。
 途方に暮れる僕。
2019.05.21 08:55(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

非双方向コミュニケーションの顛末 ― (6)絡まる

「痛っ!」
 朝、起き上がろうとした彼女が小さく悲鳴を上げた。
 後頭部を押さえているから、僕は心配になって彼女の背後に回り込んだ。
 彼女の手元を覗きこむと、髪に湿布が貼りついている。昨夜、首すじに湿布を貼っているのを見た。寝ている間に剥がれてしまったのだろう。くしゃっと丸まった湿布に髪が巻き込まれてしまっている。
 彼女は湿布を引っ張っているけれど、髪も引っ張られてしまい、痛そうだ。
「え、どうなってるの?」
『湿布が丸まってるんだよ』
 教えてあげたいのに、僕の声は届かない。
「痛っ。何これ、全然取れない」
『違うんだよ。引っ張るんじゃなくて、丸まってる湿布を剥がして伸ばさないと』
 うつ伏せになって両手で湿布を引っ張る彼女に、僕はやきもきする。
『ああ、助けてあげられたらいいのに』
 こういう場面では僕はちっとも役に立てない。
 彼女が湿布と格闘していた数分間、僕は隣でハラハラと見守ることしかできず、後でしばらく落ち込んだ。
2019.05.15 00:45(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

立夏

 一昨年は家が建っていた。
 去年、家は取り壊された。
 今はサーモンピンクのケシが咲いている。
 その全てのシーンで、私は同じ靴を履いている。
2019.05.12 18:27(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

非双方向コミュニケーションの顛末 ― (5)夢

 ベランダで物音がする。がさがさとポリ袋を丸めるような音だ。
 怖い。
 根拠もなくそう思う。
 でも気になる。
 見なければいいとわかっているのに自分の行動がコントロールできない。
 サッシは重く、なかなか開かない。
 その間もずっと音は鳴っている。
 怖い。
 それなのに、なんで私は苦労してベランダに出ようとしているのか。
 ガラス越しに人影が見える。ベランダの隅に座り込んでいるようだ。
 怖い。
 そう思いながら、私の手は止まらない。
 人影が私に気付く。
 こちらを振り向いたようだけれど、シルエットで顔もわからない。ふらりと立ち上がったら、ものすごく背が高い。
 サッシがわずかに開く。
 その隙間から影が私に手を伸ばす。
 怖い。
 そのとき、ドンッと大きな音が響いた。上階で大きなものが落下したような音。部屋が揺れたような気すらした。
 私は驚いて手を引っ込めたけれど、影も怯んだようだった。
 思う通りに体が動かせることに気付いた私は、とっさにサッシを閉めた。あんなに重かったサッシがぴしゃりと閉まる。
 もう一度ドンッと音が響く。
 勢いよく目を開けると暗かった。

 明るくなってからベランダに出る。当たり前だけれど何もなかった。
 身を乗り出して下を見ると、駐輪場の屋根にポリ袋が引っかかっているのが見えた。
 追いかけられたり、何かが侵入してくる夢はよく見るけれど、自分以外の力が助けになったのは初めてだったなと思う。
 現実のサッシは、いたって軽やかに動く。
 何の音だったんだろう。
 私は天井を見上げて首を傾げた。
2019.05.12 14:40(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

さつき病

「先生、私、もうひつじには戻れないのでしょうか」
「やはり、つつじの影響が大きくてですね」
 説明を聞いている間にも、私は鮮やかなピンク色に染まっていった。
2019.05.07 22:52(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

瀕死の残高

「先生、私の残高はもう助からないのでしょうか」
「手を尽くしたのですが」
 遠くでかすかに小銭の音が響いた気がした。
2019.05.06 17:50(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

非双方向コミュニケーションの顛末 ― (4)破裂

 帰宅した彼女は買い物袋を床に置いたまま、しばらく携帯電話を操作していた。元気がない様子で、いつもなら彼女が帰ってくるとぱっと明るくなる室内がどんよりとしている。
 携帯を放り出すようにテーブルに置き、大きなため息。
『何かあった? 大丈夫?』
 当然僕の声は届かない。
 彼女は買い物袋の中身を冷蔵庫にしまい、惣菜のパックはそのまま電子レンジに入れた。
 うなるように稼働するレンジをぼーっと見つめている。
 僕が周りをうろうろしているせいもあるのだろう。黒いもやが彼女の頭に埃のようについていた。このままだと頭痛に見舞われるかもしれない。
『どうしたらいいかな』
 払ってあげたくて手を伸ばすけれど、余計にもやが集まってしまい逆効果だった。
『しっしっ! あっち行けって!』
 彼女に近付かないように注意して意識を集中する。僕の影響で集まってくるくせに、僕の思い通りにはならない。
『くそっ!』
 悪態をついた瞬間。
 ぼんっ!
 大きな音がした。
『うわっ!』
「きゃっ!」
 僕と彼女の声が重なる。
「え、何? わ、やば」
 彼女は慌ててレンジのドアを開けた。
「うわぁー。爆発してるし」
 イカの天ぷらが破裂している。パックも変形して、庫内に衣が飛び散っていた。
「あー、びっくりした。何これ、イカって爆発するの?」
 途方に暮れたような顔が、段々と笑顔に変わる。くすくす笑う彼女の周りにはもう黒いもやはなかった。
 この爆発が僕の力なのか単なる偶然なのかわからないけれど。
 少しだけ元気を取り戻した彼女は破裂したイカ天をおいしそうに食べていた。
 そのあと「衣が取れない」と電子レンジの掃除に苦労していた彼女に、僕は少しだけ申し訳なく思った。
2019.04.29 21:41(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

非双方向コミュニケーションの顛末 ― (3)僕の定位置

『あっ!』
 引っ越し業者がベッドを動かすのを見て、僕は大きな声を上げてしまった。もちろん誰にも聞こえていない。
 ベッドが置かれたのは僕の定位置、鎖の根元。要するに死んだ場所だった。
 そこに置かれたところで僕が困ることはないのだけど、彼女は寝苦しく感じるかもしれない。それが原因で早々に出て行かれたら嫌だ。僕はなんとか阻止しようとベッドを持ち上げている業者の男にしがみつく。僕の腕は彼の体をすり抜けてしまうけれど、そこは気合いだ。
「ぶぇくしっ! すみませっ! っく!」
 僕の思いが通じたのか、彼は突然くしゃみが止まらなくなったようだ。ベッドの反対側を持っていた男が、
「大丈夫か? いっぺん下ろすぞ」
「っし! す、ません!」
 目的の場所の手前でベッドは床に下ろされた。しかし、この後はどうする? あまりやりすぎると不審に思われて、寝苦しい以前の問題で出て行ってしまうだろう。
 僕は頭をひねった。
「あの、ちょっと配置変えていいですか? なんかベッドはその位置の方がしっくりくる気がして」
 家具が運ばれるのを見ていた彼女がふいに口を開いた。
『えっ?』
 そんな都合のいいことがあるだろうか。僕は知らないうちに彼女にも何かしてしまったんだろうか。
 僕は彼女の目の前に立つ。顔を覗き込む。
『僕が見えてる?』
 何の反応もない。彼女の視線は僕を通り越している。
 彼女は僕を避けずにすり抜け、業者の二人に近づいた。
『わっ!』
 ぎょっとしたのは僕の方だ。思い切り顔と顔がぶつかったのだ。感触はないけど。
 結局、ベッドの位置は変わり、僕の鎖の根元には腰高の棚が置かれた。僕が座るのにちょうどいいけど、きっと上に何か載せるんだろうな。
 案の定、棚の上には多肉植物の寄せ植えが飾られた。けれど、一ヶ月も経たずに枯れてしまう。それ以降、彼女は雑誌を積み上げるようになり、僕の定位置はその上になった。
2019.04.27 21:03(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |
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