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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

歓迎会

 天井に網を張って、色とりどりのリボンを垂らす。リボンの先には、とっておきのものを吊るした。緑のガラスの小瓶。捨てられたピアノの鍵。かつての白い薔薇。湖色の欠けたティーカップ。丸くて平たい斑ら石。ピラミッドの積み木。砂糖と塩の円柱。蟻が閉じ込められた琥珀。麻糸を編み込んだリボンには、動物をかたどった真鍮のピアスをあるだけ刺す。銀色のカラトリーをつないで、垂れ下がるように渡すと、高い音を立てた。日に焼けた骨格模型とくたびれたぬいぐるみの手をつないで、長椅子に座らせて完成だ。
 歯車が回って鐘が鳴る。壁を押して、あなたを迎える。真紅のワイン? それとも黒瑪瑙のチョコレート? 積み上げたビスケットはいくらでも食べて構わないけれど、眠るのだけは許さない。
2018.05.19 14:17(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

夏の左手

 左手は暑さに弱いから、夏になる前に取り外して冷蔵庫に保管する。最初の年は間違えて冷凍庫に入れてしまった。そのときにできた指輪の跡は、今も残っている。
2018.05.09 17:07(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

花巡り、四月末

 風に落ちた白い小さな蜜柑の花を辿って会いに行く。火の勢いが落ち着いてきたレッドロビンの生垣の道。みずみずしいハナミズキの葉の下。ピンクと白のツツジの階段。大輪の赤い薔薇が咲いたら行き止まり。私に水をくれるのはだあれ?
2018.04.28 23:16(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

初春、初夏

 夜、冷たい雨が降ってきたら、梅の匂いの角を曲がる。
 夜、生温かい雨が降ってきたら、木香薔薇の匂いの角を曲がる。
2018.04.24 20:23(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

四月六日

 オープンテラスの席で、カフェオレを飲む。大きな塊になった埃が、足元でくるくると回っている。引きずられた髪の毛は尻尾。小さな落ち葉は耳だ。チィチィと鳴きながら、席を立った私の後をついてきたから、名前を考えなくてはならない。
2018.04.06 19:28(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

四月五日

 オオイヌノフグリの花を、ひとつひとつ摘み取って、方眼紙に並べる。微妙な色の違いで、離れて見ると霞がかった空のようだ。紙全体が小さな花で覆われたところで、丸めて捨てる。
2018.04.06 02:50(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

四月一日

 切り損ねて一本だけ長い左足の親指の爪が春に触れると、そこから私が解けていく。糸になった私は桜の花びらを巻き込みながら、風でくしゃくしゃに丸まって転がっている。
2018.04.01 13:46(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

三月十九日

 扉の上の路線図を辿って想像の海へ行く。ひたすら斜め上ばかり見ていると瀕死の魚みたい。そう思ったらおもしろくなる。少し生き返った。







製品カタログ21「ペットボトルメール・横」収録


2018.03.19 19:49(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

春が来た

 東京も雪が溶け、地下鉄のあちこちで漏水が始まった。
2018.03.14 19:46(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

裏切りの感情

「おい、ジュリア」
 酔って帰ってきて、そのままソファで寝ていたジュリアは肩を叩かれて、薄く目を開けた。
 薄暗い室内でも淡く光る白金の髪が視界に入る。養い子のエドだ。エドは十五年前にやってきたときは細く痩せ細った子どもだった。それがいつの間にかジュリアを追い越していた。どこかで鍛えているらしく、今では、軍人のようにがっしりした体つきになっていた。
 魔女は子どもが産めない。それでもジュリアは子どもが欲しかった。旅の父子に出会ったのは偶然だったけれど、天恵に思えた。病気を抱えていた父親はジュリアが魔女と知りながら息子のことを託して、保護していくらも経たないうちに亡くなった。残された息子のエドをジュリアは養子にしたのだ。
 そのエドが不機嫌にジュリアを見下ろしていた。
「飲んで来てもいいが、きちんとベッドで寝ろよ」
「う……ん……」
 唸るように返事をして再び目を閉じると、両腕をひっぱって起こされた。
「ジュリア」
「ああーもー、かわいくない。昔みたいにお母様って呼んでごらんなさい?」
 半目で微笑むと、エドは顔をしかめた。
「いい加減にしろよ」
「なあに? お母様に逆らう気?」
 エドは舌打ちして、ジュリアを強く抱きしめた。
「俺は、あんたのことを母親だって思ったことは一度もない」
「な……」
 一気に目が覚めたジュリアを混乱に陥れたのは、エドの唇だった。それがジュリアの唇を塞ぐ。一瞬真っ白になって抵抗を忘れてしまうと、エドの両腕に力が籠った。我に返って押し返そうとしたけれど、もともと腕力では敵わない。ジュリアは即座に魔法に切り替えた。呪文が使えないから制御できないけれど、自業自得だろう。力任せに放った魔法はエドを壁際まで弾き飛ばした。
「何するのよ!」
 怪我一つしていない様子のエドはその場に膝をついた。
「ジュリア、愛してる」
「母親としてよね?」
「いや、女としてだ」
「やめて!」
 ジュリアは耳を押さえて頭を振った。
「聞いてくれ!」
「嫌よ!」
「愛してるんだ! 俺の気持ちを受け入れてほしい」
 俯いていたジュリアは顔を上げるとエドを睨んだ。暗い表情の中、目だけが輝いていた。それは憎しみの光を宿している。
「ひどい裏切りだわ。母親としての私を、あなたは殺したのよ」
「そんなことは……」
 ジュリアが指差すと玄関のドアが開いた。
「出て行きなさい」
 静かに彼女は命令する。
 弁解のため口を開こうとしたエドは、ジュリアの視線の強さに気圧されて言葉を飲み込んだ。
「今日は外に泊まってくるけれど、明日、落ち着いて話を聞いてほしい」
 ジュリアは返事をしなかった。
 ――翌朝帰ってきたエドの前には、更地が広がり、家もジュリアも跡形もなく消えていた。




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Twitterのタグ「#魔女集会で会いましょう」からの影響で。
シリアスなやつ。
2018.02.24 20:02(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |
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