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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

十月五日

 穴の空いた傘を街灯がプラネタリウムに変える。雨粒の軌跡は流星の尾。銀砂を散らしたアスファルト。いつもと違う歩道の、暗がりに潜む私。



製品カタログ22「息の根」収録


2018.10.05 20:11(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

普段の階段

 身体は、朝に上って夜には下る。
 心は、朝に昇って夜には沈む。
 歪な私は、朝に登れず夜には落ちる。



製品カタログ22「息の根」収録


2018.08.01 19:53(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

七月二十四日

 スイッチを押すと、全部のカードが裏返る。何度も繰り返すと、段々と時間差ができていく。一番素早いカードは少しずつ浮いてくるから、それをお守りにして眠りにつく。夜が沈まないように。



製品カタログ22「息の根」収録


2018.07.24 21:35(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

七月二十日

 ひび割れた皮膚から血が滲むと、そこから鱗に変わっていく。内から流れ出る血液は私を潤さない。鱗で覆われた人差し指はすっかり蛇になってしまう。ひっそりと目を開く。流れる涙も私を潤さない。ずっと止まない強い雨が甘露だと蛇は気づくだろうか。そうしたらひび割れは治るだろうか。



製品カタログ22「息の根」収録


2018.07.20 09:23(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

ちくちく

 通学電車でよく乗り合わせるスーツ姿の男性は、名刺の角でちくちくと刺されている。誰だかわからない手が後ろから伸びて、首筋に名刺を当てているのだ。
 一方、私の首筋には赤いボールペンがちくちくと刺さる。誰が刺しているのかはわからない。振り返ると手はどこかに消え、前を向くとまた現れる。毎日続くうちにそんなものだと諦めてしまっていた。学校に着くといつも首の一箇所が真っ赤になっている。
 今朝はたまたま名刺の角の人が目の前にいた。今日もちくちく刺されているなぁと見ていたら、相手もそう思っていたのか、同情の視線を向けられた。
 ふと彼が私の首筋に手を伸ばしてボールペンを受け止めた。解放感にため息が漏れる。私も背伸びして彼に刺さる名刺を手のひらで受け止めた。彼もほっと息をついた。
 私は名刺を握りつぶし、彼はボールペンを引き抜いた。二人して後ろに放り投げると、なんだかおかしくなって顔を見合わせて笑った。



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「20周年!もうすぐオトナの超短編」
峯岸可弥選 兼題部門(兼題:暴力) 投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/02/20-acd9.html

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2018/07/post-5ad7.html




製品カタログ22「息の根」収録


2018.07.03 23:07(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

骨を埋める

 母は男に逃げられるたび、「あんたの父親は王子様みたいな人だった」と話した。幼いころは目を輝かせていたが、段々聞き流すようになった。大人になって戸籍抄本を見たら母の名前しかなく、認知もされなかったんだなと少し傷ついた。
 晩年の母は病床で「もう一度あの人に会いたい」と繰り返した。私の父のことだろう。「どこにいるの?」と聞いても「秘密」としか答えなかった母が、その日は違った。
「広場に埋まっている」
「え?」
「私もあの人と同じ広場に埋めてちょうだい」
 それから何日も置かずに母は息を引き取った。私の腕を握った母の力は強く、食い込んだ爪の痕はお葬式が終わるまで消えなかった。
 落ち着いてから母の遺品を整理していて、押し入れの奥に隠すようにしまわれた段ボールを見付けた。中には本が詰まっていた。古墳時代に関する専門書。その時代が舞台の小説や漫画。ガイドブックが何冊もあり、付箋が貼られているのは全部同じ古墳だった。今は広場になっている。
 密かに取り分けておいた母の遺骨を持って、次の日、私は電車に乗った。ガイドブックにある埋葬されていた人の想像図はどことなく私に似ていた。



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「20周年!もうすぐオトナの超短編」
峯岸可弥選 兼題部門(兼題:暴力) 投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/02/20-acd9.html

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2018/07/post-5ad7.html
兼題部門(兼題:暴力)並選



製品カタログ22「息の根」収録


2018.07.03 23:06(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

びわわ

 オレンジ色の球が緑色のテーブルを跳ねる。「白線の内側にお下がりください」「あなたのお姉さんのお下がりください」いいえ、いいえ。打ち返す者もいないオレンジ色の球はころころと転がって、線路に落ちた。いいえ、いいえ。



製品カタログ22「息の根」収録


2018.05.27 12:08(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

魚と眠る

 欄干から見下ろす池は、蓮の葉が覆い尽くしている。僅かに覗く水面を錦鯉がちらちらと横切る。
 私は緋色の襦袢の裾をからげ、欄干を乗り越え、勢いのまま飛び降りた。
 蓮葉は私を受け止めることはなく、水音が箱庭の静寂を壊した。
 仰向けに沈む。緋色が溶ける。若い蕾が頭上で揺れる。蓮葉の隙間からキラキラと空を横切る白と赤の魚。
 欠伸をするとこぽりと泡がのぼっていった。すっかり空気が抜けた私は、目を閉じる。斑らになった襦袢がひらひらと揺らめいていた。


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500文字の心臓 第162回タイトル競作『魚と眠る』投稿作
【選評】なし

「絹本墨画淡彩」というタイトルで書きかけていたものを流用。




製品カタログ22「息の根」収録


2018.05.22 21:55(Tue)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |

歓迎会

 天井に網を張って、色とりどりのリボンを垂らす。リボンの先には、とっておきのものを吊るした。緑のガラスの小瓶。捨てられたピアノの鍵。かつての白い薔薇。湖色の欠けたティーカップ。丸くて平たい斑ら石。ピラミッドの積み木。砂糖と塩の円柱。蟻が閉じ込められた琥珀。麻糸を編み込んだリボンには、動物をかたどった真鍮のピアスをあるだけ刺す。銀色のカラトリーをつないで、垂れ下がるように渡すと、高い音を立てた。日に焼けた骨格模型とくたびれたぬいぐるみの手をつないで、長椅子に座らせて完成だ。
 歯車が回って鐘が鳴る。壁を押して、あなたを迎える。真紅のワイン? それとも黒瑪瑙のチョコレート? 積み上げたビスケットはいくらでも食べて構わないけれど、眠るのだけは許さない。



製品カタログ22「息の根」収録


2018.05.19 14:17(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

夏の左手

 左手は暑さに弱いから、夏になる前に取り外して冷蔵庫に保管する。最初の年は間違えて冷凍庫に入れてしまった。そのときにできた指輪の跡は、今も残っている。



製品カタログ22「息の根」収録


2018.05.09 17:07(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

花巡り、四月末

 風に落ちた白い小さな蜜柑の花を辿って会いに行く。火の勢いが落ち着いてきたレッドロビンの生垣の道。みずみずしいハナミズキの葉の下。ピンクと白のツツジの階段。大輪の赤い薔薇が咲いたら行き止まり。私に水をくれるのはだあれ?



製品カタログ22「息の根」収録


2018.04.28 23:16(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

初春、初夏

 夜、冷たい雨が降ってきたら、梅の匂いの角を曲がる。
 夜、生温かい雨が降ってきたら、木香薔薇の匂いの角を曲がる。



製品カタログ22「息の根」収録


2018.04.24 20:23(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

四月六日

 オープンテラスの席で、カフェオレを飲む。大きな塊になった埃が、足元でくるくると回っている。引きずられた髪の毛は尻尾。小さな落ち葉は耳だ。チィチィと鳴きながら、席を立った私の後をついてきたから、名前を考えなくてはならない。



製品カタログ22「息の根」収録


2018.04.06 19:28(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

四月五日

 オオイヌノフグリの花を、ひとつひとつ摘み取って、方眼紙に並べる。微妙な色の違いで、離れて見ると霞がかった空のようだ。紙全体が小さな花で覆われたところで、丸めて捨てる。



製品カタログ22「息の根」収録


2018.04.06 02:50(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

四月一日

 切り損ねて一本だけ長い左足の親指の爪が春に触れると、そこから私が解けていく。糸になった私は桜の花びらを巻き込みながら、風でくしゃくしゃに丸まって転がっている。



製品カタログ22「息の根」収録


2018.04.01 13:46(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

春が来た

 東京も雪が溶け、地下鉄のあちこちで漏水が始まった。



製品カタログ22「息の根」収録


2018.03.14 19:46(Wed)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

下層と上層

 何層にも分かれた彼女を私は監視している。下層の彼女たちは静かな眠りについたけれど、上層の彼女たちは咳を繰り返してうなされている。発酵で発生した気体が一番上の彼女を持ち上げ、下の彼女たちもつられてしまう。私はそれをそっと押さえた。すると気体だけが彼女から抜け出し、小さな龍になって登る。天井に溜まった龍はもう三匹。夕方には雨が降りそうだった。



製品カタログ22「息の根」収録


2017.12.24 08:44(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

十二月九日

 電極を刺して、骨を温める。熱が伝わり、凍っていた筋肉が溶け始める。皮膚が流れるより前に止めなくてはならないのが難しいところだ。



製品カタログ22「息の根」収録


2017.12.09 11:21(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

いけないこと

 とても綺麗な芋虫だった。小指ほどの大きさの白い芋虫。薄い皮から透けた桃色が、歩く動きに合わせて揺らめき、オーロラのようだった。頭の先を指でつつくと、ひゅっと縮むのもかわいらしい。
 きっと綺麗な蝶々になるのだと思う。そうしたら、もう手のひらに乗せたりはできないだろう。きっと飛んで行ってしまう。
 どこにも行かないで。
 やわらかな背中を撫でる。ほんの少し力を込めると、オーロラが滲んだ。





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「20周年!もうすぐオトナの超短編」
たなかなつみ選 兼題部門(兼題:期間限定) 投稿作
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/02/20-acd9.html

結果
http://inkfish.txt-nifty.com/diary/2017/12/post-36a6.html
兼題部門(兼題:期間限定)佳作



製品カタログ22「息の根」収録


2017.12.05 21:27(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

十一月三日

 雪の結晶を、三度。回しながら刻みつけると、私の中心は繊維状になった。そっと取り出す。少し黄ばんだそれは、ヘチマのスポンジのようだった。片手で握り、ぎゅっと絞る。溢れ出たものは、かつて球体だった何か。今はもうぐずぐずに崩れて、紫に染まっている思い出。



製品カタログ22「息の根」収録


2017.11.03 01:24(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

雨上がりのキラキラ

 雨上がりのキラキラを踏んで歩く。
 芽が出て、蔓が伸びる。踵に絡んで、髪を引く。
 キラキラが地面から吹き上がり、視界を覆う。魚が跳ねる。羽が舞う。指先から花が咲く。甘い匂いに包まれる。
 眩しくて目を閉じると、誰かがそっと頬を撫でていった。



製品カタログ22「息の根」収録


2017.09.18 11:43(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

巻貝の緑

 右に五回。左に千回。
 冷蔵庫から流れてきた水が作った小さな海を、ぐるぐるとかき混ぜて波を起こす。発生した雲を割り箸で絡め取り、幅木に貼り付けて入道雲にした。
 翌朝フローリングの浜には小さな巻貝が打ち上げられていた。そっと拾うと、貝殻の縁がかびていた。この緑は藻ではなかったようだ。
 私は冷蔵庫に巻貝を戻す。もう何度目だろう。私は何人目だろう。
 それから、海をかき混ぜる。
 右に五回。左に千回。



製品カタログ22「息の根」収録


2017.06.23 02:22(Fri)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

春は雨、桜

 人差し指と親指を立てて銃を作る。そして、銃口を空に向けた。
 私の頭上には大きな水風船がある。
「バンッ」
 声に出さずに、引き金を引く。
 はらはらと桜が舞い散って、雨が降る。水風船はさらに膨らんだ。




製品カタログ22「息の根」収録


2017.04.10 20:09(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

柄の長いほうき

 月曜日。地下鉄の車内には誰かの羽が舞っていた。私はほうきの柄で天井を突く。すると、しゅるんと蜘蛛が降りてきた。蜘蛛は一瞬で羽を捕まえ、また天井に戻っていく。羽の持ち主だろうか、端の席に座っていた人はジャケットだけ残して消えてしまった。



製品カタログ22「息の根」収録


2017.02.14 01:04(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

不揃いな椅子

 壁際に椅子を並べる。全部デザインが違う不揃いな椅子だ。
 その椅子に私を座らせる。全員デザインが違う不揃いな私だ。
 不揃いな私に同じリボンをつける。
 不満を言わなかった一人を選んで、今日の私に決める。



製品カタログ22「息の根」収録


2017.01.31 09:15(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

バターセール

 離れた大通りを走る救急車のサイレンが響く。部屋の中も雨だった。かすかに甘い匂いがする人差し指はするすると滑って、今日がスクロールする。記録が、言葉が、時間が、現れては消える。手のひらの熱で、溶けて流れる。折れたビニール傘をアンテナにして、私は。



製品カタログ22「息の根」収録


2016.05.07 00:30(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

三月十四日

 段々と膨らむ三日月のレモンクリームを人差し指で掬って、唇のクレーターに塗ろうとすると、雨の向こうに隠れてしまった。




製品カタログ22「息の根」収録


2016.03.14 21:43(Mon)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

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