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オレンジ宇宙制作室(創作文章ブログ)

唇と髪と嘘

 私の髪はおかしい。温度と湿度と気圧への反応が異常だ。
『僕の唇を奪っただろ?』
 彼が筆談で尋ねる。怒ったようなその顔には唇がない。
「まさか」
「あなたのじゃないわ」
 私の顔の二つの唇が順に答える。嘘をついたせいで温度と湿度が上がる。髪が膨らむ。伸びる。気圧が下がる。髪はうねりながら、空に登る。そして雨が降ってきた。
『君に嘘がつけるわけないだろ』
 彼が空を見上げると、私の顔の片方の唇からため息がこぼれた。


三題噺:雨・僕・嘘
ツイッターのハッシュタグ「#雨・僕・嘘で文を作ると性癖がバレる」



豆本「超短編豆本 2019年青ノ巻」収録。

2018.09.18 13:04(Tue)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

ぺぺぺぺぺ

 星間連絡船の中ではぐれてしまったぺぺが見つかったのは三年後だった。港からの通信でハコダテ星かアオモリ星かと飛び出そうとしたら、コウチ星だという。なぜそんなところに。驚くやら呆れるやら。一番はもちろん安心で、家族みんなで笑い合った。
 コウチ星の港まで迎えに行き、三年ぶりに会ったぺぺはずいぶん大きくなっていた。頭が二つに増えている。尻尾は五本もあった。
「行方不明登録の写真とはかなり違うんですがねぇ」
 どうですか、と首を傾げる職員に、私は何度もうなずいた。
「ぺぺです! ぺぺ!」
 呼びかけると片方の頭が振り向いた。
「ぺぺぺ!」
 もう片方も呼ぶ。どちらもうれしそうだ。五本の尻尾をくるくると旋回させて飛んでくる。
「もうどこかに行ったりしちゃだめよ」
 私は二つの頭をぎゅっと抱きしめた。


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500文字の心臓 第163回タイトル競作『ぺぺぺぺぺ』投稿作
【選評】○

修正の上、豆本「超短編豆本 2019年青ノ巻」収録。

2018.07.11 20:10(Wed)| カテゴリー:500文字の心臓 | 個別表示 |

昭和遺跡No.655379

 この遺跡からはたくさんの歯が出土しました。全てヒトの乳歯、しかも上の歯でした。長年の謎でしたが、近年、他の遺跡から出土した書物により、上の乳歯が抜けた際に「縁の下」に投げる風習があったことがわかりました。そのことから、この遺跡は「縁の下」であろうと推測されています。また同じ書物の中で、下の乳歯を「屋根の上」に投げる風習も紹介されており、「屋根の上」遺跡の発見が期待されています。


豆本「超短編豆本 2019年青ノ巻」収録。

2018.06.03 14:23(Sun)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

島めぐりの旅

 やけにポップなメロディの後に流れたアナウンスは、もうすぐ取りつく島に到着すると告げた。
 あからさまにほっとした彼から目を逸らして、無言で窓の外を見る。だって、まだ到着したわけじゃない。
 フェリーの速度は徐々に緩む。
 下船したら、しかたなく許してあげるのだ。彼が謝るから、渋々だ。旅の間ずっと喧嘩しているのもバカみたいだし、せっかくの取りつく島だし。しかたなくだ。
 近づく岸を見ながら私は最初のセリフを考えていた。



豆本「超短編豆本 2019年青ノ巻」収録。

2018.01.13 02:02(Sat)| カテゴリー:単品 | 個別表示 |

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